婚約を発表した中尾さん(左)と池波(1978年)
あなたに頼めないな
終活を通じて、夫婦の絆はより強くなった。
「“身軽”になったふたりは、残された人生をどう生きるか話し合ったそうです。“もう一度、新婚をやり直そう”と考えて、夫婦で訪れたことのある場所を再訪することにしました。お互いをいたわりながら、それまでのふたりの歩みを再確認するかのように、気の向くままに旅行を楽しんでいたようです」(前出・中尾さんの知人)
2020年に入るとコロナが猛威を振るい、旅行に行けなくなった。そこでフル回転したのが「居酒屋しの」だ。
「毎日志乃さんが手作りの料理をこしらえ、お品書きまで用意して食事を楽しんでいました。コロナの3年間、自宅でのんびりと過ごすことができたようです」(前出・中尾さんの知人)
ゆっくりと流れたふたりだけの濃密な時間は、コロナ禍が明けてからも続くはずだった。しかし──。
「10年以上かけて終活を進めてきたので死後の手続きは滞りなく進みましたが、先に逝く中尾さんには、きっと無念の思いがあったでしょう。いくら完璧な終活をしていても、残された方は寂しいし悲しい。誰よりも愛してきた志乃さんにそんな思いをさせるのは忍びない、という後悔はあったはずですよ」(前出・中尾さんの知人)
それでも中尾さんは、自分が先に逝くことを想定していたのかもしれない。『終活夫婦』でこう語っていた。
《志乃より先に私が旅立つことになったら、私は何と言うのだろう。「ありがとう」には違いないのだが、それ以上に私の気持ちを伝える言葉はないものだろうか。今から秘かに探っているところだ。こればっかりは志乃さん、あなたに頼めないな》
中尾さんが池波に最期の言葉をかけ、彼の終活は完全に幕を閉じた。
(了。前編から読む)
※女性セブン2024年6月6日号
