女性セブンが取材した「リハビリの名医」

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スムーズな連携がいいリハビリを作る

 脳出血やくも膜下出血の場合は、出血を止めたり血腫(血の塊)を取り除いたりする手術に加え、再出血を防ぐために血圧を下げる、脳のむくみを取る、血管の攣縮を防ぐなどの治療が行われる。また、脳卒中患者は誤嚥性肺炎や尿路感染症、消化管からの出血など合併症を起こしやすいため、それらの治療も並行して行う必要がある。そうした治療と同時にリハビリが行われる。豊田医師が続ける。

「例えば脳卒中専用の集中治療室である『SCU』は、リハビリのセラピスト(理学療法士または作業療法士)が1名以上配置されていることが施設基準の条件の1つとなっている。それくらい、早くからリハビリを始めることが強く推奨されているのです。

 ただし発症初日の人がいきなり立ち上がると脳循環が乱れ、かえって病状を悪化させることがある。最初は横たわったまま手足を曲げ伸ばしして、関節の拘縮(硬くなり曲がらなくなること)を防ぐことから始めて、なるべく早く座ったり歩いたりする訓練を行います」

 発症後すぐに搬送され、一連の治療と急性期のリハビリを施す病院は総称して「急性期病院」と呼ばれ、入院する期間は1〜3週間が目安となる。急性期病院での治療のみで回復し、退院して自宅に帰れる患者は全体の3割ほど。6〜7割の患者は同じ病院にある回復期病棟に移るか、リハビリ専門の回復期病院に転院することになるが、ここでスムーズに移ることができるかどうかも、患者の回復具合に大きく影響するという。

 複数の急性期病院が協力して空き病床に関する情報を共有し、緊急搬送されてくる脳卒中患者を迅速に受け入れるシステムとともに、回復期のリハビリ病院とのスムーズな連携の体制を構築してきた先進的な地域の1つが熊本だ。全国有数のリハビリ病院である熊本機能病院副院長の総合リハビリテーションセンター長・渡邊進医師が話す。

「かつては転院先が見つからず、1〜2か月も急性期病院に入院している患者がざらにいましたが、それでは回復は遠のくばかり。急性期病院に赴いて、『患者さんを寝かせきりにせず、早く回復期病院に転院させてください』と呼びかけて回ったり、急性期病院のスタッフと一緒に各リハビリ病院の特徴や症例を報告する勉強会を定期的に開催したりすることで、少しずつ連携が進んできています」

 その結果、現在では1〜2か月も放置される患者はほとんどいなくなったという。とはいえ、いまでも多少の地域格差や施設格差があるのは確かだ。渡邊医師が続ける。

「回復期リハビリテーション病棟協会が毎年行っている全国規模の実態調査によれば、毎年2万人ほど患者さんのデータが出るのですが、急性期病院から回復期病院に移る期間の平均は3〜4週間。しかし熊本では、1〜2週間で転院できる連携を維持しています。全国でも、より強固な連携を構築することが不可欠だと言えるでしょう」

 では、回復期病院でリハビリを受ける際に重要なことは何か。酒向医師が話す。

「まずは画像診断に基づいて、脳がどの程度損傷して、どんな機能障害が残るかを医師がきちんと把握することです。

 それに基づいて、ご家族と面談します。患者さんがどんな状態で、どんな後遺症があり、どこまで回復できるのか、患者さんが紹介されてきた時点ではご家族はわかっていないことが多いのです。そのせいで、『元の状態に戻してください』と言われることが多いのですが、残念ながら脳が損傷している以上、病気にかかる前とまったく同じ状態に戻るのは難しい。

 しかも、最大限の回復を実現するにはかなり積極的なリハビリが必要で、退院した後も継続的なフォローアップが求められます。そのため、ご家族には退院後もサポートが必要なことを伝え、何を最終目標とするかを話し合っていただきます。そして、それでも当院で治療してほしいとご希望された場合に、患者さんを受け入れることにしています」

後編へ続く

※女性セブン2024年6月13日号

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