歌手で作曲家のジルベール・ベコーと(本人提供)
副作用でうつ病に、サポートしてくれた友人たち
一命をとりとめた後の安奈は、膠原病の治療のために入院生活を余儀なくされる。2か月ほどして退院したものの、その後も入退院を繰り返して、仕事への復帰のめどは立たなかった。
それどころか、炎症を抑える働きがあるステロイドと、C型肝炎の治療薬で免疫調節作用のあるインターフェロンを同時に服用していたため、のみ合わせの悪さからくる副作用でうつ病を発症。当時、膠原病からうつ病になった患者に自殺者が急増し問題になったが、安奈もそんな患者のひとりだった。
「父や妹には心配をかけたくなくて病気のことは伏せていました。35才で結婚したものの3年ほどで離婚してからは独身でしたので、病気の私をサポートしてくれたのは友人たちでした。3日に1度は自宅に来て身の回りの世話をしてくれるのですが、訪ねてくる誰もが、“安奈が自殺していたらどうしよう”と、こわごわ部屋の扉を開けたといいます。
そして帰るときには包丁やはさみなどは手の届かないところに隠していく──というのも、当時の私は死ぬことばかり考えていたんです。もう必要ないと、パスポートをゴミ箱に捨て、愛車を売り、好きな絵も服もアクセサリーも手放しました」
しかし、やせ細って筋力が衰えた安奈には、ベランダから飛び降りたり、首にナイフを刺したりするだけの体力すらなかったという。