スコアボードに並ぶ「0」──。プロ野球・広島の大瀬良大地投手が6月7日のロッテ戦で史上90人目の「ノーヒットノーラン」を達成した。5月24日には巨人の戸郷翔征投手も阪神戦で達成したばかりだ。失点や被安打を0に抑えるのみならず、先発投手が打者を1人も出塁させずに投げ切ると「完全試合」の偉業達成となる。直近ではロッテ・佐々木朗希投手が2022年に20歳の若さで達成したが、その試合で球審を務めたのが、同年9月を最後にプロ野球審判を引退した橘高淳氏だ(3001試合出場)。過去16人しかいない大記録に“最も近くで立ち会った”橘高氏は、その日の佐々木投手の投球をどのように見ていたのか。新著『審判はつらいよ』の著者・鵜飼克郎氏が聞いた。(全5回の第5回。文中敬称略)
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審判は歴史的な記録の“見届け人”でもある。
2022年4月10日、ロッテ・佐々木朗希がオリックス戦で史上16人目の完全試合を達成。13者連続奪三振のプロ野球新記録と1試合19奪三振の最多タイ記録も同時にマークする記録ずくめの試合で、橘高は球審を務めた。
「あの日の佐々木投手は抜群でした。とにかくストレートが速く、手元でもの凄く伸びてくる。キャッチャーの真後ろで見ていると、“キレがなくなってきた”とか“ボールがおじぎしてきた”というのが分かりますが、この時は5回のグラウンド整備中の審判控室で『今日は、このまま行くんちゃうか』と話していました」
もちろんキレがなくなったり、スタミナが切れたりしたからといって、打たれるとは限らない。逆にどれほど調子が良くても出会い頭に一発を浴びることもある。そんな試合もたくさん間近で見てきた橘高だが、「この日の佐々木投手は持っている力を、常時マックスで発揮していたように見えた」と振り返る。
「ロッテの本拠地・ZOZOマリンスタジアムは強風が吹くことで知られていますが、ほぼ無風で天候も穏やか。最高のコンディションでした。僕はダルビッシュ有投手や大谷翔平投手の投球もジャッジしましたが、佐々木投手のほうが“いい球の割合”が高い印象です。完全試合の時は5球のうち4球はいい球を投げていた。ダルビッシュ投手も大谷投手も凄かったですが、それでも5球のうち2、3球でした。それに加えてあの時の佐々木投手はテンポもコントロールも抜群だったと思います」
キャッチャーの真後ろという“特等席”から見ているうえに、数年間をプロの捕手として過ごした橘高ならではの感想だ。「ピッチャーの配球を楽しむ余裕なんてありません」と言うものの、それほどあの日の佐々木は特別だったということだろう。