歯科医院や美容院で必須の距離が近い施術を悪用する人たちがいる(イメージ)
例えば、軽いものだと「彼氏はいるのか」「今度飲みに行こう」と個人的なことを話しかけるといった具合で、ここまでならまだ「我慢ができる」とAさんはいう。しかし、いくら美容室というオープンな空間であれ、美容師と客は基本的に一対一だ。他の従業員や客に悟られないよう、悪質客はあの手この手で美容師を困らせるという。
「シャンプーの時、お店では若いスタッフにチェンジするんですが、それに激昂した男性のお客様がいました。俺は美容師を指名しているんだ、と。ただ、その指名された女性美容師に聞けば、体を寄せられたり、至近距離で話して息を吹きかけられたから、シャンプーどころか、指名も拒否してほしいというんです。でも、美容室で顧客の予約を拒否するというのは、聞いたことがありません。
HPから美容師の写真を削除しようとも考えましたが、急に消すのも不自然ですし、元々美容師やスタッフの写真を掲載しているのは、お客様に安心してもらうため。このような行為に及ぶ男性客は何人かいるのですが、彼ら全員がHPで顔写真付きで紹介した女性美容師を指名する。不在とか休みとか嘘を言っても、後からバレたら怖いと、結局拒否すらできないんです」(Aさん)
こうした客による被害は、Aさんの店だけにとどまらない。別々の店舗で働く10名ほどの女性美容師に話を聞くと、全員が多かれ少なかれ、こうした「避けようがない」セクハラやパワハラ、カスハラに疲弊している実態が浮かび上がってくる。
顔写真掲載中止を求めると「それなら辞める?」
美容師のように客にマンツーマンで対応しなければならない業種では、やはり大なり小なり、同様の悩みを抱えているという話が次々に飛び出してくるようだ。千葉県在住の歯科医・Bさん(20代)は、退職まで考えたという自身が受けた被害を振り返る。
「複数人の歯科医師がシフト制で勤務している歯科に勤めていて、HPで私を含む所属の女性歯科医が数名、顔写真付きで紹介されるようになったのは2年ほど前。それから、顔写真付きの女性歯科医ばかりを狙って予約し、セクハラをしてくる男性患者が、複数名くるようになりました。相手は患者さんですから、体を触られたり、交際関係について聞かれても、そこは医師として毅然とした態度を取ってきました。でも、あまりにも悪質で、あからさまなセクハラに遭遇すると、当事者は恐怖心もあって厳しい対応するのが難しい。本当は警察に捕まえてほしいほどですが、一応私たちも接客業ということで、我慢するしかない」(Bさん)