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医師らしい説明も安心材料だけど、「お元気そう」の言葉がどれほど心の薬か…オバ記者が体験した患者の疑心暗鬼と医師の優しい嘘

オバ記者の心を救った医者の優しい嘘

オバ記者の心を救った医者の優しい嘘

 年齢を重ねると、自分の健康についてさまざまな不安が生じてくる。そんななか医師の言葉が原因で、疑心暗鬼になってしまうことも──。『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子が自身の体験を綴る。

 * * * 
 あの、いきなりですが、あなたは疑い深い方ですか? 私は、耳に優しいことや面白いことはマルっと信じるタチ。だからロクでもない男にひっかかったり、小金を騙し取られたりしたけれど、まぁ、そのくらいじゃ性格なんか変わらないよね。と思ってきたのに、そんな私でも疑り深くなるという話です──。

 あれは2年前の秋、大学病院で検査に次ぐ検査をした結果、「おそらく、卵巣がんのステージI」と宣告された。「がん」と言われたら誰でもビビるけれど、担当の女性医師Eさんは、「卵巣は全摘してみないと正確なことはわからない」と診察のたびに言うんだわ。この「わからない」が曲者でね。何をしていても、(私のお腹の中ではがん細胞が日々増殖しているんじゃないか?)という思いから逃れられないのよ。

 で、結果、お腹から子宮と卵巣を切り取って顕微鏡で見たら、がんではなく「境界悪性腫瘍」という曖昧な“デキモノ”で、この曖昧さがまた私の疑心暗鬼を増殖させたの。半年後にCT検査をして、1年後には内診をして、そのたびに「大丈夫です」とE医師はうなずいて、私もその都度、ホッと胸をなでおろすのよ。でも、一度目覚めた疑いはそう簡単に消えやしない。

 おまけに、手術から1年後には「すい臓に影があります」なんて穏やかじゃないことまで言う。こちらもがんではなくて「のう胞」という水疱で、悪性ではないと断言されたものの、心配・疑いは倍になったわけよ。

 疲れて起き上がれない日や、風邪が抜けずにいつまでもグズついたりすると「もしかしたら……」と頭の中に黒い雲が湧き、風呂上がりにクラッとしたり、腰痛になると、「いよいよ?」と切羽詰まった気になる。幸い、根が忘れっぽいから、楽しいことがあるとそのときはキレイさっぱり消えるけど、体調が悪くなるとまた……。

 それだけじゃないんだよね。67才といえば前期高齢者3年生で、疲れやすいし関節も軋む。目はかすむ。しばらく座って原稿を書いていて、立ち上がろうとすると「ん?」。とっさに足が前に出ない。やっと歩き出しても、右手と右足が同時に出るロボットみたい。もしかしてこれが老い? でも老いたことがないから確信が持てない。

 それでも思い当たることもあるの。私は以前、中年期の頃、初老の女たちが集まるとまずは互いの体の不調の話をするのを見て、当たり障りのない健康話から始めるのは大人の知恵なのかなと思って聞いていたんだわ。が、自分がその立場になってスッとわかったね。体の話は“自分の立ち位置の確認”なんだよね。

「立ち上がってもすぐに動けない? やだ、私なんか60前からそうよ。だからいまは、立ち上がったらひと呼吸おいて、私は次に何をしようとしているか、そのためにはどうするか、確認してから動き出す。こうすると、『あれ? 私、何しようとしていたんだっけ?』と思わなくなるよ」と言ったのは専業主婦のM美さん(66才)だ。

 M美さんは私と違ってちゃんとウエストもあるし、規則正しい生活をしているせいか、肌はピカピカ、背筋はシャン。その彼女がそんなことを言ったから、びっくりすると同時に安心したわけ。彼女が老いるなら、私みたいな“歩く不摂生女”にガタがきても仕方がないよ、と。

 それから半月ほど。術後1年半のCT検診に行ったら、私の心配を吹き飛ばすようなことをE医師から言われたのよ。

「今後、手術の痕からがんが発症する可能性ですか? ほぼゼロですね」とサラッと言うから思わず「えーっ、ゼロですか?」と聞き返すと、「はい。それは手術した直後からわかっていたことですが、万が一ということがあるので医師の口からは言えないんです」と。さらにE医師は私の顔を見て、「それに野原さんのお顔、お元気そうじゃないですか」だって。

 血液のデータや画像がどうしたこうしたと医師らしい理屈を説明されるのももちろん安心材料だけど、優しく微笑みかけてくれるあの笑顔と「お元気そう」の言葉がどれほど心の薬になるか。

 そうだよね。67才なら67才なりの元気があって、人に元気そうな顔を向けることができたら元気。そう決めて、ムダな心配はしないことにしようと思ったのでした。

【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。

※女性セブン2024年7月25日号

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