小学校低学年の頃、父の一男さん、母の千嘉子さんと。「父とは逆で、母はとにかく厳しい人でした。褒められたのは、本当に一度だけ。お米を研いだら『かしぐ(研ぐ)の、上手いの』と」(津田さん)
衝撃が走った思い出のおろしそば
ある日、ざるそばをさっと平らげて、ソースカツもなくなったので、おろしそばを食べる父を眺めていました。すると「一口食べてみるけ?」と、目の前に出されて。
じつは幼い頃、ぼくは料理の味には興味がなく、ギミック(仕掛け)だけで注文をしていました。ざるそばは、持ち上げたそばにちょっとだけ汁をつけるとか、箸を深く下ろすとか、いろいろ遊べるでしょ(笑い)。あと、ソースカツ丼についてくるしじみのみそ汁も母からもらって。ちっちゃい殻から身を外すのが、面白いんです。
だから、単調にすするだけのおろしそばは眼中にもなかったのですが、口に入れた瞬間、衝撃が走りました。辛味大根の刺激がバンッときて、すぐ後にそばの香りとねぎとかつおぶしのハーモニー。一口どころか夢中になってすすり、父の分を完食してしまいました。
驚いた様子の父が「辛ろうないんか」と言い、「ひっで(すごく)うまいわ」と答えて、皆で笑いあったのをよく覚えています。それ以来、ぼくはそばといったら、おろしそば一択です。
いまね、こんな思い出話も父とできたらうれしいのですが、反抗期だった中学2年のときに、突然逝ってしまいました。胃潰瘍の検査で入院したはずが、実際にはスキルス性の胃がんで、あっという間の出来事でした。だから、スクリーンに映る姿も見せられなかったのですが、映画が好きな人だったので、きっと喜んでくれているはずです。