『静かな生活』パパ役
「伊丹さんは夢の中に現れる」
山崎は3作目『マルサの女』まで出演したが、以降は『静かな生活』(1995年)を除けば出ていない。伊丹流の細部にこだわる演出と、山崎が求める自由な役作りが噛み合わなくなっていたのが理由だった。
「監督と俳優は腹の探り合いをするもんですから。最初は何から何までピタッと呼吸が合って、気持ちよく仕事ができた。でも、だんだん演技することが息苦しくなっちゃってね。自然と離れていった。久々の『静かな生活』では勝手にやってやるぞと思ったら、自分で9回くらいNGを出しちゃってね。僕がひとりで電話を受けるわりと長いシーンがあるでしょ。やっと最後までやり終えたら、伊丹さんが『山さんがOKならOKです』って。皮肉な再会だよ。あとで細かいところを指摘されて、さんざん仕返しされた(笑)。そういう仲だったから、互いにどこかで楽しんではいたんだ」
喧嘩別れではない、ふたりにしか知り得ないわだかまりがあった。伊丹が亡くなってから27年、山崎は今でも伊丹のことをよく思い出すという。
「今でも濃い関係ですよ。夢にもよく出てくるしね。夢の中で、ずっと喧嘩してたんだから(笑)。でも何年か前に初めて彼の記念館を訪れてね。僕は仲直りするつもりで行ったんです。なんとなく気になっていたんだ。そしたらプロデューサーの玉置(泰)さんが飛んできてくれてね。そこで一緒にビールを飲んだりして。それからは夢に出てきても。仲良くやっていますよ」
※文中敬称略
取材・文/奥富敏晴(映画ナタリー)