倉敷女児誘拐監禁事件の連れ去り現場

倉敷女児誘拐監禁事件の連れ去り現場

 いまだに子どもに護身術のようなことを教えている学校もあるようで、驚くことがあります。小学校で行われる防犯教育では、手をつかまれたら連れていかれないために地面に伏せなさいと教えることがあるようです。もしそれを実行した場合、犯罪者が諦めて手を放して立ち去ってくれればいいのですが、そうとばかりは限りません。

 頭に血が上った犯罪者は、伏せた子どもを蹴るでしょう。人間は反射的にそういう行動に出るのです。大人が子どもの腹をめがけて蹴った場合には内臓破裂で即死です。

 ほかにも、足を踏みつけろとか、かみつけとか、いろいろな方法を学校の安全教育の中で教えています。あるとき私が講演に行った小学校で、「ぼくは大人の手を振りほどけるから大丈夫」と言いきった児童がいたので、私がその子の手をつかんでみました。当然、大人の力にかなうはずもなく、振りほどけるわけがありません。少年は自信満々だったのですが、しょんぼりしてしまいました。学校の安全教育では警察官がやってきて、子どもに護身術のようなことを教え、「うわあ、やられた〜」などと言ってお茶を濁しているので、子どももそうやって危険を回避できると錯覚してしまうのです。

 大人が護身術として習うのであればまだしも、子どもが大人を相手にするのですから、勝てるわけがありません。しかし現実には、そういう防犯教室が多いのです。

 大人でも同じですが、人質になってしまったら犯人の言うとおりにして、犯人を刺激 しないようするのが鉄則です。犯罪者に抵抗するのは、相当リスクが大きいということを認識してもらいたいと思います。

【プロフィール】小宮信夫(こみや・のぶお)/1956年。東京生まれ。立正大学文学部教授(社会学博士)。ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者でもある。現在、警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「地域安全マップ指導者講習会」総合アドバイザーなどのほか、全国の自治体や教育委員会などに、子どもを犯罪から遠ざける防犯アドバイスを行なっている。『犯罪は予測できる』(新潮社)など著書多数。

※小宮信夫・著『子どもは「この場所」で襲われる』をもとに再構成

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