国内

【夏休み終わりに知っておきたい】インターネットに漂う「生きるのが辛い」投稿に引きずり込まれる危険にどう向き合うか デジタル遺品の専門家の考え方

夏休み明けがつらいという人へどうすれば良いのか

夏休み明けがつらいという人へどうすれば良いのか

 18歳以下に限ると、1年で最も自殺者が多いのは9月1日、すなわち夏休み明けとの統計がある。友人や匿名の誰かから「生きるのが辛い」という声を受けとったとき、どう向き合えば良いのか。そうした声が書き込まれた143のサイトを読み込み、どう対応するかを考察した『バズる「死にたい」』(小学館新書)の著者で、デジタル遺品に関する調査を続けるノンフィクションライターの古田雄介氏がレポートする。

* * *
 これから数日の間、SNSやブログで生きづらさや、そこからくる希死念慮や自殺願望に触れる機会が増える可能性が高いでしょう。

 というのも、18歳以下の自殺者数を日別で見たとき、1年を通して毎年9月1日が突出するためです。少し古い資料ですが、平成27年版自殺対策白書によると、約40年間の統計で同様の傾向がみとめられるといいます。

 9月1日を夏休みが終わって学校が始まる日だと仮定すると、今年は当日が日曜日になるので、9月2日(月)にピークが移りそうです。そして、月曜日は年代性別を問わずに自殺者数が増える曜日でもあります。

 若い人や、若い人との交流が多い人は、近しい間柄の人からそうした声に接する状況に備えておいたほうがいいかもしれません。

 それ以外の人も無関係とは思わないほうがよいでしょう。多くの人にリアクションされた投稿=バズった投稿はフォローの枠を越えて広範に拡散するので、目に触れる機会がおそらくは自然と増えるからです。実際のところ、「死にたい」という声はよくバズります。

 近年、自傷や自殺を誘発する書き込みは世界中で厳しく規制されていて、自傷や自殺に関するメッセージもしばしば抹消や表示規制の対象にされています。ところが、この声はインターネット上で増え続けています。たとえば「Googleトレンド」で「死にたい」を全期間検索すると、2010年頃からスコアが倍増していることが分かります。

 SNSで個々人の思いが自由に発信できる今の時代、こうした声は案外誰のところにもすっと届くようになっているのです。心配になったり、動揺したり、ときには共感を生んだりと、独特の引力を備えたメッセージといえるでしょう。

 ではこうした言葉に直面したとき、どう向き合うのがよいでしょう

引きずり込まれる危険を感じたら判断を放棄する

 私は『バズる「死にたい」』という本を刊行するにあたって、自殺願望や希死念慮を吐露するサイトを143件読み込みました。数回の投稿で更新が止まったものもあれば、10年以上もほぼ毎日の発信を残していたものもあります。10代の人から推定60代の人まで年代も様々でした。そうしたサイトに触れたうえで断言できることがひとつあります。「死にたい」という声だけでは、何も判断できないということです。

 インターネットを漂う「死にたい」という声は、とても多様です。

 電車に飛び込む直前にその思いを複数回に分けてSNSに吐露した男子高校生がいました。しかし、過去の投稿を読み込むと、彼は今の自分の生活が続けられないと思う何らかの事情を抱えていることが見えてきました。それを踏まえると、彼は別に「死にたい」わけではなくて、ただただ「荷物を降ろしたい」だけのように感じられました。本当は生きたいけれど、他に手段が見つからなかったから、自ら命を絶つ道を選んだだけで、おそらく最後まで死にたくはなかった、と。

 一方で、長年の自己嫌悪が自殺願望に強く結びついているある女性が残したブログからは、全編を通して確実に「死にたい」というブレない強い意志を感じました。逆に、自らの「死にたい」意志を強化するために自殺予定日までの日付けをカウントダウンする投稿を続けたケースもありましたし、恨みを抱く相手を非難する目的で「死にたい」と発信したり、周囲からの助けを得るために繰り返し自殺願望をつぶやいたりするケースもありました。

 言葉の裏に個々の事情があるのは当たり前の話ではあります。ですが、言葉のインパクトから即座にレッテルを貼ってしまうと、その先に意識が向かわなくなります。

 とかく「死にたい」は強い言葉ですから、レッテルを貼って蓋を閉めてしまいがちです。かつて私も、ある人から「公序良俗に反するから、自殺した娘のSNSアカウントを削除したい」と相談を受けました。そのとき深く考えずに、自殺の痕跡=「公序良俗に反する」という図式に同意して、考えうる削除方法を教えてしまいました。削除されたいま、その女性のSNSアカウントが本当に公序良俗に反するものだったのか、確かめる術はありません(このときの後悔が上記の本をつくる発端となりました)。

 そんな乱暴なことをして後悔しないためには、無責任な判断をしない習慣を身につけることが大切です。「死にたい」の背景をできるかぎり把握したうえで否定や肯定をすればいいし、引きずり込まれる危険を感じたら判断を放棄すればいい。そうした投稿を見るのをやめるのも手でしょう。個別に毎回判断するのは面倒です。ですが、この面倒を省いてしまうと、本当の意味では向き合えなくなってしまうと思うのです。

【プロフィール】古田雄介(ふるたゆうすけ)1977年、愛知県生まれ。名古屋工業大学工学部卒業後、ゼネコンと葬儀社を経て雑誌記者に転職。2007年にフリーランスとなり、2010年から亡くなった人のサイトやデジタル遺品についての調査を始める。主な著書に『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)、『故人サイト』(社会評論社)、『デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(伊勢田篤史氏との共著/日本加除出版)、『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)など。

関連キーワード

トピックス

大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ハワイ別荘・泥沼訴訟を深堀り》大谷翔平が真美子さんと娘をめぐって“許せなかった一線”…原告の日本人女性は「(大谷サイドが)不法に妨害した」と主張
NEWSポストセブン
世界的な人気を誇るシンガー・d4vd(20)(Instagramより)
「行方不明の10代少女のバラバラ遺体が袋詰めに」世界的人気歌手・d4vdが所有する高級車のトランクに遺棄《お揃いのタトゥー「 Shhh…」で発覚した2人の共通点》
NEWSポストセブン
須藤被告(左)と野崎さん(右)
《紀州のドン・ファンの遺言書》元妻が「約6億5000万円ゲット」の可能性…「ゴム手袋をつけて初夜」法廷で主張されていた野崎さんとの“異様な関係性”
NEWSポストセブン
神田正輝の卒業までに中丸の復帰は間に合うのか(右・Instagramより)
《神田正輝の番組卒業から1年》中丸雄一、『旅サラダ』降板発表前に見せた“不義理”に現場スタッフがおぼえた違和感
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)の“過激バスツアー”に批判殺到 大学フェミニスト協会は「企画に参加し、支持する全員に反対」
NEWSポストセブン
ラーメン店の厨房は暑い(イメージ)
《「汗を落とすな」「清潔感がない」》猛暑で増えた「汗クレーム」 熱湯で麺を茹で上げるラーメン店やエアコンが使えないエアコン取り付け工事にも
NEWSポストセブン
主人公・のぶ(今井美桜)の幼馴染・小川うさ子役を演じた志田彩良(写真提供/NHK)
【『あんぱん』秘話インタビュー】のぶの親友うさ子を演じた志田彩良が明かすヒロインオーディション「落ちた悔しさから泣いたのは初めて」
週刊ポスト
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《いまだ続く広陵野球部の暴力問題》加害生徒が被害生徒の保護者を名誉毀損で訴えた背景 同校は「対岸の火事」のような反応
週刊ポスト
どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン