ライフ

《デビュー35周年》今なお熱視線を集める漫画家・安野モヨコ 幅広い作品に共通して描かれる“女の生き様”とそれを支える“欲望”

デビュー35周年を迎えた漫画家の安野モヨコ

安野モヨコはデビュー35周年を迎えた〈「ラブ」に生きるカヨコ、『ハッピーマニア』(c)安野モヨコ/CORK〉

 見目麗しい男女はもちろん、年配の男女や悪人までリアルに描き「どんなキャラクターでも、絵にするときには愛情が必要」と語る、漫画家・安野モヨコ。彼女が描く、美しくて強く、時にもろくも恐ろしくもある女たちの物語が熱視線を集めている──。

《「甘やかしてくれる」女と浮気した男は 更に甘やかせば戻ってくる》
《人間年とったくらいじゃそう簡単に変わんないよね ホントは男のことなんて実際どうでもいいと思ってる》

 著名人の格言ではない。漫画家・安野モヨコが現在連載するマンガ『後ハッピーマニア』の作中に出てくるセリフだ。『リバーズ・エッジ』や『ヘルタースケルター』など、1980年代から1990年代にかけて衝撃的な作品を世に送り出し一世を風靡した漫画家・岡崎京子のアシスタントを務めた安野は、1995年に『ハッピー・マニア』(全11巻)で名を広く知られるようになる。衣食住よりも仕事よりも友情よりも恋に生き、愛を追い求める主人公・カヨコの“むき出しの欲望”は多くの女性の心を掴み、累計発行部数330万部を突破した。

 そんな安野モヨコの名作、『脂肪と言う名の服を着て』(1997年)、『カメレオン・アーミー』(1999年)、単行本未収録の『プレイボーイ団地』『観覧車』を加えた4編を掲載した『安野モヨコ選集』が8月29日に刊行され、話題を集めている。

 30年も前の作品であるにもかかわらず、いまなお初めて作品を読む10代、20代の心に刺さるばかりか、例えば冒頭の『後ハッピーマニア』は、恋や愛から“現役引退”し、熟年離婚すら視野に入れている50代、60代をも夢中にさせている。安野ワールドの魅力について、熱烈な安野ファンだという書評家の三宅香帆さんが言う。

「『後ハッピーマニア』を読んで、いま私には人生何回目かの安野モヨコブームが到来しています。いま、『どのマンガがおもしろい?』『どの漫画家さんがいい?』と聞かれたら、やっぱり安野さんじゃないかと真剣に思う。

『ハッピー・マニア』のカヨコにしても、45才になって刻まれた、リアルなしわや乾いた肌に生き様が見えてきます。キャラクターの解像度が高く、ファッションや歩き方、一挙手一投足まで人生の軌跡が読み取れるんです。それは安野さんが、キャラクターが使う化粧品や、着ている洋服のブランド、それをどこで買っているかまでイメージして描いているからだと感じます」

 大きな瞳にすらりと長い手足と曲線美。一目で「安野作品」とわかる特徴的で華やかな作画も大きな魅力。三宅さんが続ける。

「1998〜2003年にかけて美容雑誌で連載されていた『美人画報』も、いまでも何度も読み返しますがいつ読んでも夢中になってしまう。ダイエットやファッション、メイクについて描かれていたものなので情報そのものは昔のものなのですが、廃れないんです。

 それは、『美人画報』が単にブームやトレンドを取りあげているからではなくて、安野さんの持つ美意識が詰まっているから。キャラクターの解像度が高いことと通じるかもしれませんが、安野作品は表面的ではないリアルなキャラクターの生き様が描かれているんです」

 だからこそ、冒頭にあるように時代を超えてなお、描写やセリフが決して古くさくならない。それも安野作品に私たちが心惹かれてやまない大きな理由だといえるだろう。自身を「安野先生の作品で人生が変わった」と語るほどの安野ファンで、東北芸術工科大学准教授のトミヤマユキコさんが語る。

「安野先生の漫画は『ハッピー・マニア』のようなラブコメから、『働きマン』のようなお仕事ものまで幅広いジャンルがある。その中で共通しているのは、“女の生き様”と、それを支える『欲望』がしっかりと描かれていることです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン
ラオス語を学習される愛子さま(2025年11月10日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまご愛用の「レトロ可愛い」文房具が爆売れ》お誕生日で“やわらかピンク”ペンをお持ちに…「売り切れで買えない!」にメーカーが回答「出荷数は通常月の約10倍」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《10代少女らが被害に遭った“悪魔の館”写真公開》トランプ政権を悩ませる「エプスタイン事件」という亡霊と“黒い手帳”
NEWSポストセブン
「性的欲求を抑えられなかった」などと供述している団体職員・林信彦容疑者(53)
《保育園で女児に性的暴行疑い》〈(園児から)電話番号付きのチョコレートをもらった〉林信彦容疑者(53)が過去にしていた”ある発言”
NEWSポストセブン
『見えない死神』を上梓した東えりかさん(撮影:野崎慧嗣)
〈あなたの夫は、余命数週間〉原発不明がんで夫を亡くした書評家・東えりかさんが直面した「原因がわからない病」との闘い
NEWSポストセブン
テレ朝本社(共同通信社)
《テレビ朝日本社から転落》規制線とブルーシートで覆われた現場…テレ朝社員は「屋上には天気予報コーナーのスタッフらがいた時間帯だった」
NEWSポストセブン
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまのラオスご訪問に「感謝いたします」》皇后雅子さま、62歳に ”お気に入りカラー”ライトブルーのセットアップで天皇陛下とリンクコーデ
NEWSポストセブン
竹内結子さんと中村獅童
《竹内結子さんとの愛息が20歳に…》再婚の中村獅童が家族揃ってテレビに出演、明かしていた揺れる胸中 “子どもたちにゆくゆくは説明したい”との思い
NEWSポストセブン
日本初の女性総理である高市早苗首相(AFP=時事)
《初出馬では“ミニスカ禁止”》高市早苗首相、「女を武器にしている」「体を売っても選挙に出たいか」批判を受けてもこだわった“自分流の華やかファッション”
NEWSポストセブン
「一般企業のスカウトマン」もトライアウトを受ける選手たちに熱視線
《ソニー生命、プルデンシャル生命も》プロ野球トライアウト会場に駆けつけた「一般企業のスカウトマン」 “戦力外選手”に声をかける理由
週刊ポスト
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン