9月9日、稲葉地一家組員が抗争相手の池田組傘下組織組員を射殺。その瞬間を捉えた防犯カメラ映像。容疑者の手には段ボールが
共犯ヤクザは「山口組分裂抗争」の功労者
2人の接点はどこにあったのか?
羽賀が2度も“刑務所務め”をしているので、最初は、塀の中で知り合ったのかと予想した。しかし、収監された刑務所は違う。実際はもっと古い付き合いだという。
「もう20年以上前からの付き合いだと聞いている。刑務所に入るときも相談を受け、なにかにつけて面倒をみて、金に困ったときはずいぶん貸したそうだ」(松山容疑者と付き合いのある他団体幹部)
実際、松山容疑者は関連の不動産会社から、羽賀容疑者に約4億3000万円を貸し付けていた。もし羽賀がパンクすれば、北谷の不動産を担保にすればいいと考えていたのかもしれない。
愛知県警は羽賀容疑者に不動産収入があり、松山容疑者が旧知の司法書士を使い、嘘の登記を指示したとみている。が、松山容疑者が羽賀を食い物にしようとしたわけではないだろう。金欠になれば金を貸してくれとせがまれ、問題が起きれば面倒を押しつけられるだけなら、もはやトラブルメーカーでしかない。それに松山容疑者は暴力団社会で最もホットな人物だ。芸能人くずれを食い散らかす必要はどこにもない。
ヤクザは一種の人気商売である。
彼らの人気は喧嘩の強さに比例し、発言力もまた殺した喧嘩相手の人数に伴って増大する。そのためヤクザ社会には昔から「喧嘩に勝てば金が湧く」という格言がある。
稲葉地一家は、今回の山口組分裂抗争で、4人もの関係者を殺害した。
まずは2016年7月に山健組の元組員を殺した。2019年10月には、当時、神戸山口組の主流派だった五代目山健組の定例会にヒットマンを来訪させ、実話誌のカメラマンを騙って2人の幹部を射殺している。そして今年9月9日、宮崎市の池田組系事務所に、宅配業者に扮した稲葉地一家のヒットマンが訪問、荷物の受け取りに出てきた留守番の幹部を撃ち殺した。六代目山口組にすれば、金鵄勲章ものの功労者だ。
業界内の評判もいい。
「友好団体で抗争があり、犠牲者が出た時にも、必ず自分が身体を運んで葬儀に出ていた。カタギに対しても人当たりがよくたくさんのブレーンがいる。シノギで逮捕されるような危ない橋を渡る必要などまったくない人」(同前)
暴力団社会では時の人だけに、松山容疑者を逮捕した愛知県警は高く評価されるだろう。
「パクるだけで相当なポイントだから、勇み足で逮捕したのかもしれない。起訴できるかもまだ分からないし、虚偽の登記とはいっても、有名な司法書士が入っていたのだから、スレスレとはいえ、あくまで合法的な対処だった可能性もある」(警察関係者)
合法な処置でなければ、日本司法書士会連合会の副会長が手を貸すとも思えない。司法書士は弁護士同様、法律の専門家だけに、もともと暴力団と接点の多い業種である。松山容疑者と野崎容疑者の接点も、合法的な事業で生まれたのではないか。とはいえ、有名ヤクザとの交流をおおっぴらにはできず、社会的制裁は避けられないはずだ。
地方のコミュニティが形作るヒエラルキーの中で、暴力団は未だその上位に位置し、地元有力者の一員として存在している。今回の事件のキモは、地方都市に蔓延(はびこ)る前時代的な特異性をあぶり出したことかもしれない。
◆取材/文:鈴木智彦(フリーライター)