ライフ

柴田哲孝氏、軍事サスペンス『抹殺』インタビュー「必要なのは1が好奇心で2に観察力。次が分析力で最後が表現力だと思う」

柴田哲孝氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

柴田哲孝氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

 不覚にも、忘れていた。たった8年前の2016年7月、南スーダンの首都ジュバで何があり、2012年1月の第1次隊以来、全11回に亘ってUNMISS(国連南スーダン共和国ミッション)に派遣された日本の自衛官もその場にいたことを──。

 ディンカ族のキール大統領派とヌエル族のマシャール副大統領派の衝突が激化し、国内が内戦状態と化す中、国連施設に近いテレイン・ホテルを暴徒が急襲。本来エリートの大統領警護隊がNGO職員らに暴行や集団レイプを働き、ヌエル族のジャーナリスト1名を公開処刑した事件と、その7年後の驚くべき余波を、柴田哲孝著『抹殺』は描く。

 この時、第10次PKO部隊の一員としてジュバにいた〈風戸亮司〉ら、陸上自衛隊習志野駐屯地の特殊作戦群(特戦群)、通称“S”の面々や、彼らに救出された国境なき医師団の〈長谷川麻衣子〉。さらには帰国後の風戸達に忍び寄る影の存在も含めて、本書はあくまで小説だ。が、安倍元首相銃撃事件に材を取った前作『暗殺』同様、どこまでが事実でどこからがフィクションか、境目を探さずにはいられないほど、限りなくリアルで今に近い、国際謀略サスペンスなのである。

『暗殺』は今年6月の刊行以来、大反響を呼び、ランキングでも常に上位。

「もちろん前作も小説ではありますが、史上最長の任期を誇る元首相が公衆の面前で殺された事件なのに、実況見分もろくにされていないなんて何かがおかしいんじゃないかと、多くの方が感じていた。つまりはそういうことだと思います」

 本作の出発点もそうした「ごく当たり前の違和感や『なぜ?』」だったという。

「具体的な時系列としては、まず2016年の秋に南スーダンPKO部隊の日報の隠蔽が問題化し、当時の稲田朋美防衛大臣が辞任しましたよね? 元々自衛官の知り合いが何人かいて、その時は『何も話せない』と言っていたけど、退官後、遊びに来たんですよ。それで話を聞いてみたら、『南スーダンに行ってたでしょ? 実はあれ、結構ヤバくて……』と言う。

 実際に何があったのかは確かめようがないんだけど、テレイン・ホテルから戻って来てないヤツがいるとか、心を病んで辞めたとか自殺したとか、現地での自衛官の死について、いろんな噂があるらしくて。

 もう一つは作中に書きましたけど、北海道の部隊が8割近かった第10次隊の中に数人だけ、特戦群の人間がいたって言うんですね。『あれは絶対、北海道組じゃない。習志野だ』って。

 それを聞いた時に、あ、これを小説にしてやろうと思ったんですよ。ジュバでああいう酷い事件が起きたのも事実なら、日報問題で大臣が辞めたのも本当で、でも日報程度で大臣の首が飛ぶなんてあり得ないよと政府筋の人間も言っていた。だとすれば本当は何を隠したくて、何がまずかったのかを、リーダビリティ溢れる小説に仕立ててやれと。その元自衛官の彼も『柴田さん、書いてよ』と託してくれたことですし」

関連記事

トピックス

サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《総スカン》違法薬物疑惑で新浪剛史サントリー元会長が辞任 これまでの言動に容赦ない声「45歳定年制とか、労働者を苦しめる発言ばかり」「生活のあらゆるとこにでしゃばりまくっていた」
NEWSポストセブン
「第42回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
《ヘビロテする赤ワンピ》佳子さまファッションに「国産メーカーの売り上げに貢献しています」専門家が指摘
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《エプスタイン事件の“悪魔の館”内部写真が公開》「官能的な芸術品が壁にびっしり」「一室が歯科医院に改造されていた」10代少女らが被害に遭った異様な被害現場
NEWSポストセブン
香港の魔窟・九龍城砦のリアルな実態とは…?
《香港の魔窟・九龍城砦に住んだ日本人》アヘン密売、老いた売春婦、違法賭博…無法地帯の“ヤバい実態”とは「でも医療は充実、“ブラックジャック”がいっぱいいた」
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、インスタに投稿されたプライベート感の強い海水浴写真に注目集まる “いいね”は52万件以上 日赤での勤務をおろそかにすることなく公務に邁進
女性セブン
岐路に立たされている田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
“田久保派”の元静岡県知事選候補者が証言する “あわや学歴詐称エピソード”「私も〈大卒〉と勝手に書かれた。それくらいアバウト」《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「少女を島に引き入れ売春斡旋した」悪名高い“ロリータ・エクスプレス”にトランプ大統領は乗ったのか《エプスタイン事件の被害者らが「独自の顧客リスト」作成を宣言》
NEWSポストセブン
東京地裁
“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリート詰め事件」逮捕されたカズキ(仮名)が語った信じがたい凌辱行為の全容「女性は恐怖のあまり、殴られるままだった」
NEWSポストセブン
「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路とは…(写真/イメージマート)
【1500万円が戻ってこない…】「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路「経歴自慢をする人々に囲まれ、次第に疲弊して…」
NEWSポストセブン
橋幸夫さんが亡くなった(時事通信フォト)
《「御三家」橋幸夫さん逝去》最後まで愛した荒川区東尾久…体調不良に悩まされながらも参加続けていた“故郷のお祭り”
NEWSポストセブン
麻原が「空中浮揚」したとする写真(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)
《ホーリーネームは「ヤソーダラー」》オウム真理教・麻原彰晃の妻、「アレフから送金された資金を管理」と公安が認定 アレフの拠点には「麻原の写真」や教材が多数保管
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン