裁判官は検察の顔色を窺う

里見:冤罪が生まれる大きな理由の一つが人質司法です。先ほど話題に出た大川原化工機の冤罪事件もそうですし、2019年に業務上横領の疑いで逮捕された大阪の不動産会社プレサンスコーポレーションの山岸忍元社長も248日間の勾留後に釈放され、のちに無罪判決が出た。今年10月9日に画期的な判決が出た袴田巌さんの事件もそうです。

角川:僕はいま名前が挙がった方たちにシンクロニシティを感じているんですよ。みな同じ時代に、人質司法という問題と闘う同志だと。個々の事件を改めて見ていくと、すべての事件に共通点があるのが分かります。それが、検察の捜査能力の低さとガバナンスの低下です。組織として反省して過去を受け止めていないから、同じ過ちを繰り返すのではないか。

里見:私は人質司法によって冤罪が生まれる原因は2つあると見ています。

 1つ目が、会長がご指摘された検察という組織の問題。2009年に厚労省の村木厚子さんが無実の文書偽造の罪で逮捕されました。その後、刑事司法を見直すために法務省が主導した話し合いに参加した村木さんも、検察官自らが変わろうとしていないと感じたそうです。

 2つ目が裁判所や裁判官の問題です。被疑者が保釈請求をしても、裁判官が検察官の反対をあっさり受け入れて、保釈請求を却下してしまう。

角川:裁判官は検察官の顔色を窺って判断しますからね。

里見:大川原化工機事件もプレサンス事件も、同じ構造です。捜査機関は証拠となる自白を得るために、逮捕して身柄を拘束しました。裁判所や裁判官がお墨付きを与える令状を出した。裁判所が検察の暴走を抑える歯止めの役割を果たせていない。そして検察の暴走に拍車をかけるのが、メディアです。

角川:里見さんの『人質の法廷』では、検察と裁判所が冤罪を生み出す仕組みだけでなく、メディアがどう加担するのかも描いている。さらには検察、裁判所、メディアに対し、刑事弁護士がどう闘うのか、複雑な構図を的確に記しています。

里見:ありがとうございます。過去の冤罪事件でも、メディアは警察や検察の発表をもとに報じるだけで独自の検証をほとんどしませんでしたから。

角川:戦中の大本営発表と一緒ですよ。そこは、僕自身も被疑者になって痛感しました。逮捕された直後、「ワンマン経営者」「KADOKAWAはガバナンスが利いていない」と散々批判された。

 興味深かったのは、僕の逮捕と時を同じくしてスタートした袴田さんの再審の報じられ方。メディアは僕を批判した同じ紙面で「我々が袴田さんを犯人扱いした結果、冤罪が生まれた」と反省している。皮肉なものです。

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン