ライフ

鈴木光司氏、最新長編作『ユビキタス』インタビュー 最終的に地球生命の誕生や宇宙の真理に近づくことが、僕が小説を書く最大の目的

鈴木光司氏が新作について語る(撮影/朝岡吾郎)

鈴木光司氏が新作について語る(撮影/朝岡吾郎)

『リング』も『らせん』も、映画以前に小説が怖かった。

「ビデオの中から貞子が出てくるのは映画ならまだいいけど、小説は幽霊を出しちゃ、お終いなんですよ。全く怖くなくなってしまう。それより情景描写だけでいかに読者の五感に訴え、匂いや肌触りまでも感じさせるかが勝負。それにはネチネチと書くことですよね。ゾワゾワ、ネチネチ(笑)」

 鈴木光司氏の新作ホラーとしては約16年ぶりとなる『ユビキタス』。タイトルは〈遍く行き渡る〉〈どこにでもいる〉を意味し、一般には〈美しいもの、愛しいもの、優しいもの〉とされる花や緑が、本作においては最大級の恐怖をもたらす。

 発端は南極観測船に運用士官として乗り込み、深度3000mから採掘した氷の棒〈コア〉を載せて帰国した海上自衛隊の〈阿部〉二尉が、その一部を南極土産として4つの家庭に送ったこと。折しもそれは大手出版社を不倫が原因でやめ、今は探偵事務所を構える元雑誌記者〈前沢恵子〉が、件の元不倫相手〈稲垣〉から15年前に病死した彼の親友〈麻生敏弘〉の両親を紹介され、彼らの孫探しを依頼された矢先のことだった。

 そして一見無関係な事件と事件の間に彼女が接点を見出した時、彼らの叛乱は既に始まっていたのである。

〈植物の不気味な立ち位置と振る舞い〉に著者が興味を抱いたのは約20年前。

「きっかけは口絵にも転載した、膨大な未知の植物の絵と未知の言語が書かれた稀覯本〈ヴォイニッチ・マニュスクリプト〉でした。たまたま読んだ物理の本に無意味な情報の一例としてこの現在も未解読な書物が紹介されていて、その謎に魅入られた敏弘同様、何が書かれているかを自分なりに分析してみたくなった。

 実際、地球史を植物視点で眺め直すと、彼らが全てお膳立てしたように見える。我々は食物をエネルギーに代える消化器系の代謝と、酸素を取り込んで排出する呼吸器系の代謝を日々繰り返し、この2つの流れが止まると死に至る。その酸素を27億年前に作ったのが酸素発生型光合成を初めて行なったとされる原核生物シアノバクテリアです。つまり生殺与奪の権は依然向こうが握っていて、人間は遺伝子を遍く運ぶ〈パシリ〉に過ぎないわけ。それなのに、『緑の地球を守ろう』なんて爆笑物でしょう。

 そうやって視点をちょっとずらすだけで固定観念がひっくり返るカタルシスというかな。僕はホラーより何より、読む前と読んだ後では見ている世界が一変するような感覚を、ぜひとも読者と共有したいんです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

憔悴した様子の永野芽郁
《憔悴の近影》永野芽郁、頬がこけ、目元を腫らして…移動時には“厳戒態勢”「事務所車までダッシュ」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
現行犯逮捕された戸田容疑者と、血痕が残っていた犯行直後の現場(左・時事通信社)
【東大前駅・無差別殺人未遂】「この辺りはみんなエリート。ご近所の親は大学教授、子供は旧帝大…」“教育虐待”訴える戸田佳孝容疑者(43)が育った“インテリ住宅街”
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
【エッセイ連載再開】元フジテレビアナ・渡邊渚さんが綴る近況「目に見えない恐怖と戦う日々」「夢と現実の区別がつかなくなる」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博を訪問された愛子さま(2025年5月8日、撮影/JMPA)
《初の万博ご視察》愛子さま、親しみやすさとフォーマルをミックスしたホワイトコーデ
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』が放送中
ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』も大好評 いつまでのその言動に注目が集まる小泉今日子のカッコよさ
女性セブン
事務所独立と妊娠を発表した中川翔子。
【独占・中川翔子】妊娠・独立発表後初インタビュー 今の本音を直撃! そして“整形疑惑”も出た「最近やめた2つのこと」
NEWSポストセブン
名物企画ENT座談会を開催(左から中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏/撮影=山崎力夫)
【江本孟紀氏×中畑清氏×達川光男氏】解説者3人が阿部巨人の課題を指摘「マー君は二軍で当然」「二軍の年俸が10億円」「マルティネスは明らかに練習不足」
週刊ポスト
田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
ラッパーとして活動する時期も(YouTubeより。現在は削除済み)
《川崎ストーカー死体遺棄事件》警察の対応に高まる批判 Googleマップに「臨港クズ警察署」、署の前で抗議の声があがり、機動隊が待機する事態に
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン