『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』(朝日新聞出版)

『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』(朝日新聞出版

 その後も、自然妊娠しないストレスや、凍結卵子を使った体外受精に対する意見の食い違いで心身ともに疲れていった。悩んだ末に振り絞った結論が、「もし私が出産できたら、結婚してほしい」という言葉だった。子どもを産めたら結婚する、産めなかったら私と結婚するのではなく他の相手のところに行ってもいい。彼を思って絞り出した、倉田さんなりの一つの結論だった。

 その言葉を静かに聞いていた彼は、「僕は子どもを産んでくれる人と結婚したいわけじゃない」と、ぽつりと言った。

「子どもはできてもできなくても、それでいい。結婚しよう」

 嬉しかった。だが同時に、愛するが故のプレッシャーも背負った。

 その後、“人工的なやり方”で子どもをつくるかどうかの議論は、最終的には倉田さんの熱量に押される形で、彼が折れることになる。

「最大限協力するから、好きなようにしたらいい」「気が済むまでやってみたらいいよ」

 自分の本心は脇に置いて、私の気持ちに寄り添ってくれたと思った。心から感謝したが、「寄り添わせてしまった」という複雑な感情も残った。

(中略)

 夫の現在について聞くと、「めちゃくちゃ息子を溺愛してます」と、笑みがこぼれた。毎日「大好きだよ~」と息子を抱きしめ、同じ布団で顔をくっつけて眠る。息子は、小学1年生で身長130センチ、体重30キロで小学3年生並みの体格だが、外を抱っこして歩いたりもする。息子と過ごす時間を確保するため、残業が必要な時は、翌日4時半に起きて早朝出勤するようになった。「ものすごい溺愛ぶりでしょう?」と笑いつつ、倉田さんも幸せそうだ。

 倉田さんが取材を受けることに対しては、「伝えたいことがあるなら、自由に話したらいい」と送り出してくれたという。

「あの時、凍結した卵子で体外受精したいという私の気持ちに寄り添ってくれたからこそ今がある。夫は夫なりに、相当大きな負担と葛藤があったと思う。それを抑えて寄り添ってくれたことに、ただただ感謝しています」

(了。第1回を読む)

関連キーワード

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン