アントニオ猪木「最期の2か月」に寝食をともにした江端裕巳氏(撮影/藤岡雅樹)
──猪木さんは何と?
「『助けてくれ、この狭い部屋から出してくれ……』って聞き取れました。間もなく麻布十番のマンションから猪木さんを運び出すことが出来たのですが、その際、私は介護用タクシーを用意して、インテリアに関する資格を持っていた妻が備品を揃えたんです。猪木さんは開口一番『やっと、のんびり出来る』。私に介護を任せるのもそこで決まりました」
──啓介さんからの依頼ですか?
「そうです。(2011年に亡くなった)快守さんからも生前に『寛至に何かあったら、エバちゃんが世話をしてくれ』と言われていたので、不思議な巡り合わせですよ」
──本当ですね。
「ただ、この2022年8月の時点で『秋を迎えられるかどうか難しい』って主治医の先生から余命宣告されていたし、『介護は一人だと大変ですよ』と忠告されてもいました。そこで複数のヘルパーさんは継続して働いてもらうことにしたんです」
──それで、8月2日から介護生活が始まるわけですが。
「食事、洗濯、下の世話と介護全般……。やることが多すぎて、開始1週間で私自身がダウンしてしまった。『あなたが先に逝っちゃうわよ』って妻に怒られました」
(第2回へ続く)
【プロフィール】
細田昌志(ほそだ・まさし)/1971年岡山市生まれ。鳥取市育ち。『沢村忠に真空を飛ばせた男/昭和のプロモーター・野口修評伝』(新潮社)で第43回講談社 本田靖春ノンフィクション賞、『力道山未亡人』(小学館)で第30回小学館ノンフィクション大賞を受賞。最新刊は『格闘技が紅白に勝った日~2003年大晦日興行戦争の記録~』(講談社)。
※週刊ポスト2025年6月6・13日号