食へのこだわりが強かったというアントニオ猪木(時事通信フォト)
プロレス界のレジェンド、アントニオ猪木(享年)が亡くなったのは2022年10月のこと。今も多くの人の記憶の中で生き続ける“燃える闘魂”の最期の2か月に、寝食をともにしたのは、会社経営者、物まねタレント「原辰」としても活動する江端裕巳氏(66)だった。ノンフィクション作家の細田昌志氏が江端氏に行ったインタビューで明らかになった介護生活とは──。【全3回の第2回】
2週間で8kg痩せた
──介護で一番大変だったのは何ですか?
「まずは眠れないこと。猪木さん自身、何十分かおきに目を覚ましてしまうんです」
──江端さんが2か月間、ずっと記入されていた「介護状況ノート」を見ますと、例えば8月25日は「睡眠0時5分~0時45分・2時40分~5時15分・6時20分~7時40分・合計4時間40分」とあります。結構、睡眠時間は小刻みなんですね。
「そうです。猪木さんが起きたとき、私が熟睡していては話にならず、『お目覚めですか』と言えるようにしておかないといけない。また室温調整も大変でした。28度を超えると猪木さんは『寒い』と言うんです。ただ、2022年の夏も猛暑で……」
──ノートに「寒いと仰りヒーターつける」(8月18日)とあります。真夏の話ですよね?
「はい、でも冷房を切ってヒーターを焚く以外ない。大変というと、ベッドからの移動も大変でしたが、あれはコツがあるんです。お尻を軸にくるっと回す。それでも女性のヘルパーさんは支えられず、何度か転倒させてしまっている。サイズが違うので、彼女たちには何の責任もないんですが……」
──厳しそうだなあ。
「1週間で5kg、2週間で8kg痩せました。でも、一番大変だったのは食事です。猪木さん自身、食へのこだわりが強い。水は強炭酸のウィルキンソン、お茶はとうもろこしのひげ茶、牛乳はよつ葉牛乳。それ以外は好まない。それに献立はたくさん並べないと嫌がるんですよ。大根おろしは丸々一本摺らないと不機嫌になってしまう」
──たくさん食べていた昔の名残ですかね。
「それはあったでしょう。あるときから献立表を壁に貼りました。『Aおにぎり B刺身 Cステーキ Dラーメン』みたいに(笑)。そうしたら『じゃあ、今日はAにしよう』って言って喜んでくれて」
──猪木さんの一番の好物は何ですか?
「肉です。ステーキもそうですが、麻布十番の『一番館』の豚足が大好物」