軍令違反で刑罰を受けた元兵士はいまどうしているのか
1989年6月4日の天安門事件の際、学生らに銃口を向けることを拒否して部隊を離脱した軍令違反で刑罰を受け、その後もずっと当局の監視下に置かれている元中国人民解放軍兵士が、重度の心臓病でありながら、治療費などが払えず満足な治療を受けられないまま、自宅で病床に伏せっていることが明らかになった。
元兵士は天安門事件当時の軍の状況やその後の当局による弾圧の体験などを記録しており、「歴史に残したい」と語っているという。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
この元兵士は事件当時、河南省に拠点を置く中国人民解放軍第54集団軍第162師団に所属していた張世軍氏。1970年8月生まれの54歳で、現在、山東省に在住している。
張氏は1989年6月3日に戒厳部隊とともに天安門広場に入った際、部隊が広場の学生らに向けて発砲しているのを見て、部隊を離れると上官に告げ、作戦に加わらなかった。このため、事件後、「戒厳令の遂行拒否」「ブルジョア的自由化」などを理由に軍を追放さされた。この際の退職金はなく、軍人年給の権利もはく奪されている。張氏は不満を表明したものの、さらにその行為を咎められ、1992年には「反党・反社会主義罪」で3年間の労働改造による再教育処分となった。
その後の2009年、張氏はこれらの措置に関して、当時の胡錦濤国家主席(兼中国共産党総書記)に公開書簡を送り、自身の名誉回復などを求めたことで、地元当局により自宅軟禁を強いられこととなった。
張氏は昨年、心臓発作で緊急入院したが、その際の医療費や入院費などの支払いが滞ったため、強制的に退院を余儀なくされ、今は自宅で寝たきりの状態だという。
張氏は天安門事件からこれまでの自身の体験をまとめており、近い将来、「本としてまとめて、自身の体験を歴史として残したい」と語っているという。
天安門事件から36年、中国当局は徹底した言論統制を続けており、こうした声はどこまで届くのか。