貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
白鵬の「罪」と「償い」
「エルボーやカチ上げではいけない」──それが元横綱・白鵬(40)の取り口を指していることは明らかだろう。そのことを尋ねると、「横綱としてというより、力士として論外ですよ。大の里は、そんなことをする必要もない横綱になると思います」と厳しい表情で口にした。
その白鵬は5月場所後、相撲協会に退職届を提出。自身の宮城野部屋が不祥事で閉鎖され、昨年4月に伊勢ヶ濱部屋へ転籍したが、師匠の定年に伴い同郷の後輩横綱である照ノ富士親方(33)が部屋を継ぐ。その下で部屋付きとなることに反発しての退職とされる。貴乃花氏は白鵬の退職について、「それも人生だと思うが……」として、むしろ伊勢ヶ濱部屋を継ぐ照ノ富士親方の資質を評価した。
「ケガで序二段まで落ちて、そこから這い上がってきた。日本人が学ばなければいけない力士像を作りましたよね。育てた師匠(伊勢ヶ濱親方=元横綱・旭富士)は指導者として実績を積まれた方だろうし、そこで学んだ照ノ富士は部屋の師匠に向いていると思います」
その照ノ富士と白鵬の因縁は2017年の“鳥取事件”が広く知られる。モンゴル出身の力士らが巡業先の鳥取で集まった酒席でトラブルが起きた。現役横綱だった白鵬や日馬富士が、後輩の照ノ富士や当時の貴乃花部屋に所属していた貴ノ岩を叱責。日馬富士が暴力を振るった騒動だ。当夜の出来事を問題視した貴乃花氏は協会執行部との対立を厭わず、鳥取県警に被害届を提出する対応を取った。
「たとえば芸能ニュースでも、今は長く隠し通せない時代になっている。警察の案件だと思ったら、勇気を持って被害者を守るために公表しにいかなければならない。組織内で駆け引きに使う時代じゃない、という理解でした。モンゴルの子(貴ノ岩)を預かり、私も手塩にかけて育てて、初の関取になった。モンゴル人でも日本的に育てて、日本国の恥にならないようにと思ってきました。それなのに、同じ民族だからといって他の部屋の弟子を指導してはいけない。しかも暴力を使っての説教など論外でしょう」
そう事件当時を振り返ったうえで、「その人間が犯した罪は生きているうちに何か償いをしないといけない。そういう人間社会の掟があるのだと思います」と言葉を継いだ。
日馬富士は廃業となったが、膝に故障を抱える照ノ富士に正座をさせるなどした側の白鵬は減給処分で角界に残った。引退して部屋を持ち、昨年に部屋の不祥事が発覚。それもまた、モンゴル出身の弟子による暴力・いじめだった。貴乃花氏が危惧した問題が再生産されたようにも見える。そう尋ねると、言葉を選ぶようにこう話した。
「誰しもこの世に生きていれば、他人に迷惑をかけていることもあるでしょうし、逆に幸せを与えていることもあるでしょうが、迷惑をかけているほうが多いなら罪を償わなければならない。人生はそうやって調律が合ってくるんだと思います」