救急車有料化の動きもある(イメージ)
2022年に救急搬送された人のうち、入院が必要な中等症以上は約半分の52.7%で、47.3%は外来診療で済む軽症者だった。話し相手が欲しくて50回も電話をかけるおばあさんのような例はさすがにまれかもしれないが、寝ていれば治るような風邪や介護疲れで救急車を呼ぶ人もいる。
たまりかねた三重県松阪市は、2024年6月から、入院が必要なような状態でもないのに救急車を呼んだ場合には、選定療養費として7700円を徴収することにした。200床以上の病院を紹介状なしで受診すると7700円取られるが、軽症の人が救急車を呼んだらそれと同じ金額を徴収している。茨城県も、2024年12月から、緊急性の認められない患者が救急車を呼んだ場合、一部の大病院において7700円の徴収を始めた。この動きが全国に広がる可能性もある。
日本は7700円でも大騒ぎだが、海外では救急搬送を有料にしている国が多い。フランスも救急車は有料だ。フランスの首都パリで、公営の緊急医療サービスSAMU(Service d’Aide Medicale Urgente)のコールセンターを見学したことがある。コールセンターには医師が常駐し、必要と判断されれば緊急機動組織(SMUR)や搬送車が出動する。救命救急機器が装備され医師が同乗するドクターカーでは、車内で治療が開始される。緊急性が高くないと判断された場合には、民間の医療搬送サービスや医師の有料往診サービスの利用を勧める。相談や重症者の搬送は無料だが、民間の救急車や患者搬送車の利用は有料で、走行距離にもよるが3万~4万円以上請求されることも多いようだ。
ドイツでは自治体によって料金が異なるが、やはり救急車は有料で、5万~10万円程度かかることもある。米国はさらに高額で、10万円以上かかる場合もあるそうだ。
都市部でさらに後期高齢者人口が増えれば、無料で行われていた日本の救急搬送は破綻する。日本も軽症者の救急要請には、何万円も請求するようになるかもしれない。
日本でも、救急車や病院の利用者である患者とその家族が、救急車は無料で利用できて病院は安い価格で利用できるという思い込みを捨て去り、救急車は緊急性が高いとき、病院は重い病気が疑われるときにしか使わないというふうに今までの常識を転換すれば、それほどひどいことにならずに2040年を迎えられる可能性がある。
意識の転換が求められている。
(了。第1回を読む)
【プロフィール】熊谷賴佳(くまがい・よりよし)/1952年生まれ。1977年慶應義塾大学医学部卒業後、東京大学医学部脳神経外科学教室入局。東京大学の関連病院などで臨床研究に携わったのち、1992年より京浜病院院長。祖父と父親とも医師という医師家系で育つ。オリジナリティー溢れる認知症ケアの発案のほか、地域が一丸となった医療サービスの実現をめざして院外活動にも積極的に参加。認知症や地域医療に関する著書多数。
三重県松阪市の取り組み