激しい雨が上がった直後、湿った空気に包まれていた
性搾取の根絶を目指した結果、一部の売春婦たちが法の目が届かぬ場所へと追いやられていったのだ。さらにパリ五輪を控えた2024年には都市部の“浄化”がさらに進められ、パリの路上や安宿で客を取っていた売春婦が辿り着いたのが、この森だった。
木陰に立つ女性2人が発した言葉
森を横切るように走るロンシャン通りは車の往来が絶えない。そこを、記者はゆっくりと歩いた。ほどなくして、道沿いの木陰に立つ2人の女性の姿が目に入った。記者が近づき、自身が日本から来た記者だと名乗ったうえで、「ここで何をしているのですか?」と尋ねた。するとレモンイエローのヨガウェアのような服をきた女性がこう言った。
「オーラルは20ユーロ(約3400円)、セックスは40ユーロ(約6800円)よ」
その露骨さに記者が言葉を詰まらせると、2人は顔を見合わせ、何かを小声で囁き合い始めた。東京よりも物価の高いパリで、20ユーロは少し高めのラーメン1杯分くらいの値段だ。
手持ち無沙汰からタバコに火をつけずくわえていると、それを見ていた女性が「一本、もらえる?」と声をかけてきた。記者が「どうぞ」と手渡すと、女性の顔にわずかな笑みが浮かんだ。緊張で張り詰めていた空気が、ほんの少しほどけた。
記者は改めて取材の趣旨を伝えた。パリで路上に立つ女性たちの現状をできるだけ当事者の言葉で知りたい、ということをできるだけ丁寧に伝えた。
すると女性は、どこかあきらめたような表情で話し出した。