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高田文夫氏が振り返る「爆弾犯になった友人」の思い出 逃亡生活14年、刑務所生活6年を経て届いた「まだ生きてた」証拠の手紙

柔道が強かったという梶原譲二(イラスト/佐野文二郎)

柔道が強かったという梶原譲二(イラスト/佐野文二郎)

 放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、元逃亡犯の友人と、その娘について。

 * * *
「高田さんて、梶原さんのお知り合いですよね。娘さんが本を書きました」と出版社の人から手紙と本が届いた。

 著者である娘は「梶原阿貴」。カジワラ……少し考えたらすぐに頭の中は60年前に戻った。

 大学受験を控えいつもの井の頭線の帰り道「タカダどうすんの? 大学行くの?」と柔道が強かった梶原譲二がきく。「適当にみつくろってさ、あとは金出しゃ大丈夫だろ」「そうはいかないよ。そういう考えが大学を、日本という国を駄目にしていくんだよ」「梶原は?」「大学行く金もないしさ。バイトしながら演劇の方へ」これが最後の別れだった。私は日芸へ行き卒業して放送作家の見習いのようなものを……。

 あの時代我々団塊世代を中心に学生運動真っ盛り。若者達、実はほとんど頭の中では革命は起きると考えていた。若者達の反乱。各大学はロックアウト、正義の闘いと言われた「日大闘争」(古田会頭の使途不明金)からセクト間の争いとどんどん闘争はエスカレートしていった。梶原は俳優をやりながら闘争にのめりこんでいったらしい。

 昭和46(1971)年12月24日、新宿三丁目にある伊勢丹のむかいの追分交番で“ツリー爆弾”が爆発、警官1人が左足切断の大けが、通行人11人が重軽傷(死者は出ていない)。東京にいる若者達の間で「ツリー爆弾」は衝撃をもってむかえられた。当時ゴールデン街へ行くとひとしきり酒の肴は「ツリー爆弾」であった。

 犯行グループはどんどんとパクられていき、我が友、梶原のみが逃亡。あの頃やたら警察が我が家へやって来て「梶原は立ち寄りませんでしたか?」。威勢のいいお袋は「学生時分は来たかもしれないけど、爆弾犯になってからは来ないネ。あんた達がマヌケでドジだから逃げられんだよ!」と逆に喝。

 演劇仲間と逃走中に結婚し、この娘・阿貴が生まれた。親子3人での人目を忍ぶ生活。それは大変だったろう。芝居仲間の知り合いも多いので、娘は中学からもう撮影現場で働く。高校では次々と女優もこなし末はちゃんとした脚本家になる。ハンディだらけの人生なのに生きる事に前向き。そのあたりも克明にこの本に書いてある。逃亡生活14年、ムショ暮し6年。まだ生きてた。生きてた証拠に譲二から手紙が来た。

 そんな時、50年逃げて病院へ入り「桐島です」と本名を言って4日目に死んだあの男を映画にするからと高橋伴明から阿貴に連絡。「逃亡犯の心はお前が一番書けるだろ」と言い「5日で書け」。5日で『桐島です』の脚本を書いた。本当は5日ではなく50年の人生で書いた。

※週刊ポスト2025年8月1日号

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