報酬は月約10万円が110万円に上昇
小島被告は特殊詐欺についての被告人質問において、組織の内情を詳細に説明した。組織を「会社」、組織の人間を「従業員」、分配された被害金額を「給与」と称し、身振りを交え説明する様子からは、日本で多数の被害者を生んだ詐欺行為を、当時は完全に“正規の仕事”だと錯覚していたかのようにも見える。
「僕以外の従業員は全員揃ってました」(被告人質問での小島被告の証言。以下同)
「会社では回収役の手元に現金が渡れば案件成功なんです」
「給与は各箱5パーセント、箱長はボーナスで2パーセントプラスなどもありましたが、各々下の給与は箱長が管理していました」
「かけ子の給与はエクセルのマクロを組んで僕が管理していました。最初にエクセルを作ったのは別の人間でしたが、どう見ても完璧じゃなく、僕がマクロを組み直しました」
フィリピンの拠点に集められた構成員らは、朝礼を経て、朝8時から17時まで“仕事”をこなす。かけ子は、ネット上にある電話帳サイトを印刷したものを渡され、支給されたスマホを用いて電話をかけていった。当初、かけ子として組織に参加した小島被告。しかし「かけてはみるんですがうまく話せず、騙しきれない。毎週のように怒られていた」ことから、渡辺被告の雑用係に。
のちリクルート業務を経て、構成員らの報酬管理、運搬なども担うようになった。2019年になると、小島被告がフィリピンに渡る原因となった借金を渡辺被告が代わりに返済してくれたことから、小島被告の渡辺被告への忠誠心はさらに高まる。組織加入時、小島被告の報酬は月約10万円だったが、のちに月約25万円、110万円と上昇していった。
組織のトップ、渡辺被告について「プロギャンブラーだと思ってました。カジノにずっと住んでて信じられないくらい高級な部屋に滞在していました」と小島被告は振り返る。その渡辺被告が現金とローンの合計約12億円で購入した廃ホテルにグループの拠点を移したのが2019年秋頃。
小島被告は渡辺被告に指示され「廃墟に近いホテルだったのでリノベーションの提案をしたり、部屋に置くものを決めたり、ベッドの準備や鍵の交換、備品購入なども行ないました」と、購入したホテルを実際に拠点として使用するための実作業を担った。この拠点で、約60人のかけ子たちは客室に寝泊まりしながら、オフィス風に改装した部屋に“出勤”し、詐欺を続けた。食堂もあり、昼食代は一部、組織が負担していたという。