廃ホテルを一棟買い上げた
起訴されている特殊詐欺事件は2019年のものであるが、詐欺組織自体はそれ以前からあった。立ち上げたのは、4人のうち「ボス」と呼ばれていた渡辺優樹被告(41)である。
4人は一枚岩というわけではない。時期によっても関係性が変わる。少なくとも特殊詐欺で彼らが莫大な金を得ていた時代、リーダーはまぎれもなく渡辺被告だった。そして小島被告は「渡辺信者」と自ら法廷で語ったとおり、渡辺グループの一員だった。
まず渡辺被告は2017年、タイに特殊詐欺の拠点を構築。そして翌2018年、拠点をフィリピンに移した。同年夏、小島被告がフィリピンに渡り、渡辺の組織に参加。小島被告は仮想通貨の投資に失敗し、数百万円の借金を作ってしまっていたのだ。組織では、かけ子やリクルーターを経て、金の回収やメンバーらの報酬管理、スマホや航空券の手配などを担当していたという。
小島被告が組織に参加した年の冬、のちに「ルフィ」と名乗り広域強盗の指示役となる今村磨人被告(41)が渡辺の特殊詐欺グループにやってきた。組織に入るためではなく“特殊詐欺のノウハウを学ぶため”だった。その後、今村被告は独自にタイで特殊詐欺の拠点を築いていたが、2019年には渡辺のグループに間借りする形で移転してきた。今村被告は独自で組織を構築しており、渡辺被告の配下ではなくビジネスパートナー的な関係にあった。
渡辺被告をトップとする特殊詐欺グループには、いくつかのチームが存在した。これを「箱」といい、そのリーダーは「箱長(ハコチョウ)」という。今村被告のグループは、名前の“磨人(きよと)”から「K箱」と呼ばれていた。起訴されている10件の特殊詐欺事件のうち3件は「K箱」によるものである。
のちの広域強盗で指示役「キム」を名乗ることになる藤田聖也被告(41)が渡辺の組織に参加したのは2019年9月。その前月、渡辺被告は、廃ホテルを一棟買い上げ、組織拠点を移した。藤田被告はリクルーターとして詐欺に関与し、小島被告はかけ子らへの報酬管理や金の回収などを担当。かつてテレビ番組で観たという「詐欺撲滅のイマイ」から「今井」を名乗っていたという。