娯楽番組でも「社会的な役割を果たさなくてはいけない」時がある(本文より)
少し外を歩くだけで汗だくになるほどに暑い日本の夏。そんなときは、涼しい部屋の中で本を読み、新たな世界に触れてみては? おすすめの新刊4冊を紹介する、
『トットあした』黒柳徹子/新潮社/1760円
表紙は1961年の黒柳さん。東洋のヘプバーンみたい。その黒柳さんを「お嬢さん」と呼んだ渥美清、出演の機会はなくとも仲良しだった向田邦子、「母さん」と呼んで慕った沢村貞子や永六輔など、思い出される故人の言葉から紡ぐ自伝的回想。歳月が磨いた名言集のようでも。1981年8月6日「ザ・ベストテン」の広島からの生中継で“ノーモア戦争”を訴えた黒柳さんの意志に頭を垂れる。
ずっと子供でいられた実家暮らし。一人暮らしで実日子が見つけたものとは?
『ネバーランドの向こう側』佐原ひかり/PHP研究所/1760円
実家で甘やかされて育った本田実日子。両親が突然他界し、実家に押しかけ同居する叔母から何につけてもダメ出しをくらい、耐えきれず家を出る。初めての一人暮らし、アパートで知り合う友人達や講座フェチのあの男性。30歳にして“普通の大人”になろうとする彼女の姿をユーモラスに描く。実日子が見つけた自分の“道”とは? 同じことを私も30代で考えたなあと懐かしい。
映画美学校「言語表現コース」の主任講師が長年の経験と知見を大公開
『「書くこと」の哲学 ことばの再履修』佐々木敦/講談社現代新書/1210円
ブームの言語化には二つあるように思う。伝える技術としての言語化と、思考の言語化だ。本書は後者だが、広範な話題で飽きさせない。例えば書き出し名作の存在や(石川淳や多和田葉子)、村上春樹のレトリック術など。言葉の反射神経とスローリーディングのススメは一見正反対でも、共助の関係にあると。書くより読む方がやっぱり楽しいと思わせるのが本書唯一の欠点かも。
十人十色、アクの強い個性がたまらない。直木賞候補になった痛快&爽快アクション
『香港警察東京分室』月村了衛/小学館文庫/825円
警視庁の5名、香港警察の5名が合同で捜査する特殊共助係。初仕事は元大学教授キャサリン・ユーの確保。香港の民主化デモを主導した彼女は日本に潜伏していた。が、事件は香港の一国二制度が消滅する〈2047年問題〉に発展する。たやすく全体主義に陥りそうな我が国への警鐘や、警察官の矜持(政府ではなく国民に尽くす)を背骨にしたアクション劇。この面白さ太鼓判です。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年7月31日・8月7日号