高校野球で定められている応援スタイルについての指導指針は競技関係者と学校関係者を対象としたもので、一般のファンは想定していない(写真提供/イメージマート)
昨年、プロ野球の阪神タイガース公式SNSが、一部のファンによる「ヤジ」に注意をよびかける動画を公開して話題になった。相手球団に「くたばれ」などと叫ぶヤジがお馴染みだが、相手を貶めるような言葉を投げつけるのは、お互いによいことはないと改めるようになってきた。その一方で、清く・正しく・美しくを信条とするはずの高校野球で、球場だけでなくSNSも巻き込んだ凄惨な空間が発生していた。ライターの宮添優氏が、一部のファンによる悪質ヤジ、審判への個人攻撃被害についてレポートする。
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灼熱の太陽の下での長時間プレーによる選手たちへの悪影響が問題視され「7イニング短縮論」が飛び出したり、競技人口減少の影響からか、部員が足りない学校同士が集まった「連合チーム」が増加傾向にあるなど、様々な面で転換期を迎えている高校野球。運営面での議論は様々あるが、子供達のハツラツとしたプレーは現代も変わらず健在で、すでに開催中の地方大会から大熱戦、大激戦が繰り広げられ、見る者に大きな感動を与えている。だが、そんな感動の現場、そしてSNS上には、青春の清々しい空気を台無しにする、迷惑な人たちがいると言う。
「本当は生徒応援席の近くに行きたかったんですが、満席で仕方なく離れた席に。でも、その席は始まった瞬間からうるさい人が何人もいました。お酒も飲んでました。かませーとか、殺せってのもあった。選手に聞こえていたら嫌だろうし、周りも私たちも引いてました」
近畿地方、某県在住の会社員の女性(20代)は、SNSで見かけた公立X高校野球部の球児の姿や、同校の応援スタイルに感激し、友人と共に球場を訪れたという。しかし、応援団に近い席はすでに満席。そのため、比較的空いていた、応援席から少し離れた席に腰を下ろした。ところが、すぐ近くにいたX高校の帽子とTシャツを着用した、中高年のベテラン応援グループから発せられる、信じられないような罵詈雑言のせいで、野球をまったく楽しめなかったと嘆く。
「周りの人達とも”怖い”と話していたんですが、近くにいた同じベテランファンの人たちによると、あのおじさん達も長年のファンらしく、練習試合まで追っかけるような筋金入りだとか。ただし口が悪く、特に夏の大会は、球場で酒を飲んでヤジを飛ばしまくり。X高が不利になると、相手高校批判だけじゃなく審判批判もすごかった」(会社員の女性)
もちろん、こうした迷惑な人たちは、学校などの公認を受けない「勝手応援団」であるから、学校や選手にとっても迷惑この上ない。さらに、女性がいう「審判批判」も、近年は「単なるヤジ」では済ませられないほど深刻な問題が発生している。