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【書評】『羽田圭介、家を買う。』 己と向き合う姿勢に作家としての誠実さがにじむ

『羽田圭介、家を買う。』/羽田圭介・著

『羽田圭介、家を買う。』/羽田圭介・著

【書評】『羽田圭介、家を買う。』/羽田圭介・著/集英社/2200円
【評者】松尾潔(音楽プロデューサー・作家)

『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞してから十年。同時受賞作『火花』の爆発的ヒットゆえ、「又吉じゃないほう」と呼ばれた29歳の作家は、がしかし、夥しいメディア露出で時代の寵児となっていった。

 ぼくが羽田圭介に初めて会ったのは、その翌々年。プロデュースするCHEMISTRYが、約五年の活動休止の後に開催した再始動ライブに、彼は観客として現れた。高校時代から熱心なファンであるだけでなく、自らボーカルレッスンに通う音楽好きという素顔に驚かされた。

 そんな羽田さんの新刊は「週刊プレイボーイ」連載を再構成し大幅に加筆したもの。「快適な執筆環境」を求めて、ついに都内に理想の住まいを得るまでを綴った、人生観と資産観が交錯する記録だ。株、不動産、信用取引、仮想通貨……あらゆる投資に挑み、ときに大損をしながらも、自力で道を切り拓いていく著者の姿は真剣で、滑稽で、どこか感動的ですらあり、良質な教養小説の趣に満ちている。

 住まいの細部にまでこだわる様子を、羽田さんは「セルフカウンセリング」と呼ぶ。どう生きたいか。そのためにどんな空間が必要か。無数の自問自答を重ねて己と向き合う姿勢に、作家としての誠実さがにじむ。

「五億円が必要」と思い込んでいた家が半額以下で手に届く幸運を喜びつつも、やはり「高いは高い」とも感じて「学生時代の友人が買うような価格帯ではない」と記す。率直だが厭味にならないのは、心の地肌のきめ細やかさゆえ。生活レベル向上に絶えず随伴する〈すこやかな後ろめたさ〉こそは、羽田圭介を作家たらしめる天分だろう。

 それは、ぼくが贈ったささやかな結婚祝いに対して、著者が感傷と決意を同時に抱く場面にも端的に表れる。その独特かつ絶妙なバランスこそが「成功者K」(旧作の書名より)の唯一無二の魅力だと痛感する一冊。

※週刊ポスト2025年8月1日号

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