漫画のテーマに選んだのはごく身近な題材です。半径5メートルで起きることしか思いつかなかったのです。当時はまだ店もやっており、漫画のことばかり考えているわけにはいかない。仕入れをして、商品を並べて販売もしながら、その合間に書いている。だから、自分が知っている商売のことを題材にしたんです。
苦肉の策だったわけですが、それはある意味正解だったらしい。その後、編集者に言われました。多くの新人は書けるものではなく、流行やウケを狙う。自分と縁がない世界を書いているから、リアリティのない絵物語で終わってしまうことが多い。むしろ、自分が得意なテーマを選ぶ方が、新人は評価される可能性が高いのだそうです。
原稿を講談社に送ってしばらくすると、編集部から自宅に直接電話がかかってきました。1989年の暮れのことです。
「モーニング編集部の伴と申します」
うわっ、また電話がかかってきたと驚いていると、今度は、「入選です」と言われました。
「ヤッター!」と思いながら、一方では狐につままれたような気持ちもありました。2作続けて編集部の目に止まったことが信じられなかったのです。
「ついては、受賞式に出席してください」と日時を指定されました。これでようやく入賞が真実だという実感がわいてきました。
商品の仕入れを兼ねて上京し、授賞式で初めて伴さんと直接お会いしました。何を話したのか細かいことは覚えていませんが、「また描いたら送ってください」と言われたことだけははっきり覚えています。そうか、僕に対して悪い印象は持っていないようだなと思い、うれしかったんです。
うれしいと言えば、入賞した作品が「コミックモーニング」に掲載されたこともうれしかったのですが、それ以上に感激したのは賞金でした。入選の賞金は50万円。当時の僕にとって50万円は、目がくらむような金額だったのです。原価なんかほとんどかからないで50万円もらえたんですよ。これはいい商売だなと思いました。
(第2回に続く)