ライフ

「はい、パクってます」人気漫画家・三田紀房が人気漫画を研究して見つけた“ヒットの法則”と凡人が成功を掴むコツ

積み上げられた漫画本(イメージ)

積み上げられた漫画本(イメージ)

 1989年の「月刊アフタヌーン」(講談社)新年号で、初連載『空を斬る』を獲得した三田紀房氏。毎月、原稿料が入るようになり、単行本化で初めての印税を手にしたが、順風満帆な日々は長くは続かなかった。連載終了後、次回作の企画が通らず、単行本化できるような仕事にも恵まれず、貧乏生活に突入した。

 そうした中、売れる漫画を描くため、新担当になった若手編集者・岩田さんの期待に応えるため、当時の「週刊漫画ゴラク」で圧倒的な人気を誇った『ミナミの帝王』の研究に乗り出した。見えてきた特徴的な手法とは──。

 三田氏の著書『ボクは漫画家もどき イケてない男の人生大逆転劇』(講談社)より、『ミナミの帝王』から学んだヒット作の法則をお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回の第2回。第1回を読む】

 * * *
 まず、岩田さんにアンケートの結果を教えてもらい、人気がある作品を徹底的に読み込みました。そして、ヒット作にあって、(※編集部注 三田さんが漫画ゴラクに連載していた)『クロカン』にないものに気づきました。

 それは、エンターテインメント性でした。

 アンケートの上位にきている人気作は、ありえないことをあたかもありえるように描いている。しかも、現実の3倍はおおげさに描いてありました。それこそが、読者が求めている娯楽性なのだと気づいたんです。

 それまで僕は、リアルな高校野球の面白さをコツコツ描いていました。しかし、それでは読者は反応してくれない。そこで、「週刊漫画ゴラク」らしい娯楽性を前面に出すことにしたんです。

 たとえば、こういう回を作ってみました。

 監督の黒木が新たに移った高校は、選手9人を集めるのがやっとの野球部なのですが、一人だけ飛び抜けた能力がある選手がいる設定にしました。彼は身体も大きく、150キロの剛速球を投げる。黒木もこいつを生かせば甲子園に行けるかもしれないと思い始めます。

 ところが、一つ問題がある。彼の球を受けられるキャッチャーがいないのです。そこで、サードを守っていたキャプテンをキャッチャーにコンバートし、地獄の特訓を始めます。

 プロテクターとヘルメットだけ装着させ、マスクは付けさせず大木に縛り付ける。その状態で彼のお爺ちゃんが用意してくれた牛の糞をつめたゴム風船を球に見立てて、黒木がパチンコで飛ばし、それを捕らせるというものでした。「これを捕れれば150キロの球も捕れる」というわけです。

 しかし、なかなか捕れません。キャプテンは全身牛糞だらけ。野球部の部長もそれを見て「監督、もう止めてください、それは虐待です」と静止するが、黒木は聞きません。キャプテンは全身糞まみれになり、意識朦朧とするなか、遂に捕球に成功。全員が「これで甲子園だ」と歓喜する……。

 そんな回を作ったのです。自分でもやや過剰かと不安でしたが、アンケートは3位になりました。自己ベストです。あの瞬間、「あぁ、ゴラクの読者が求めているのはこれなんだ。多少強引な展開でも面白ければ喜んでもらえるんだ」と理解しました。これに気づいてからは、ひたすら「ゴラク」らしさを追求していきました。

関連記事

トピックス

NYの高層ビルで銃撃事件が発生した(右・時事通信フォト)
《5人死亡のNYビル乱射》小室圭さん勤務先からわずか0.6マイル…タムラ容疑者が大型ライフルを手にビルに侵入「日系駐在員も多く勤務するエリア」
NEWSポストセブン
犯行の理由は「〈あいつウザい〉などのメッセージに腹を立てたから」だという
【新証言】「右手の“ククリナイフ”をタオルで隠し…」犯行数日前に見せた山下市郎容疑者の不審な行動と後輩への“オラつきエピソード”《浜松市・ガールズバー店員刺殺事件》
NEWSポストセブン
女優の真木よう子と、事実婚のパートナーである俳優・葛飾心(インスタグラムより)
《事実婚のパートナー》「全方向美少年〜」真木よう子、第2子の父親は16歳下俳優・葛飾心(26) 岩盤浴デートで“匂わせ”撮影のラブラブ過去
NEWSポストセブン
那須で静養された愛子さま(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《「愛子天皇」に真っ向から“NO”》戦後の皇室が築いた象徴天皇制を否定する参政党が躍進、皇室典範改正の議論は「振り出しに戻りかねない」状況 
女性セブン
注目を集める「既婚者マッチングアプリ」(イメージ)
《「既婚者マッチングアプリ」の市場拡大》「AIと人間の目視で悪質ユーザーを監視」「顔写真に自動でボカシ」…トラブルを避けて安全に利用できるサービスの条件とは
週刊ポスト
那須御用邸にて両陛下とかりゆしウェアで登場された愛子さま(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
愛子さま、3年連続で親子水入らずの夏休み 那須御用邸にて両陛下とかりゆしウェアで登場 「祈りの旅」の合間に束の間の休息 
女性セブン
次期総裁候補の(左から)岸田文雄氏、小泉進次郎氏、高市早苗氏(時事通信フォト)
《政界大再編》自民党新総裁・有力候補は岸田文雄氏、小泉進次郎氏、高市早苗氏 高市氏なら参政党と国民民主党との「反財務省連合」の可能性 側近が語る“高市政権”構想
週刊ポスト
人気中華料理店『生香園』の本館が閉店することがわかった
《創業54年中華料理店「生香園」本館が8月末で閉店》『料理の鉄人』周富輝氏が「俺はいい加減な人間じゃない」明かした営業終了の“意外な理由”【食品偽装疑惑から1年】
NEWSポストセブン
お気に入りの服を“鬼リピ”中の佳子さま(共同通信)
《佳子さまが“鬼リピ”されているファッション》御殿場でまた“水玉ワンピース”をご着用…「まさに等身大」と専門家が愛用ブランドを絶賛する理由
NEWSポストセブン
選挙中からいわくつきの投資会社との接点が取り沙汰されていた佐々木りえ氏
《維新・大阪トップ当選の佐々木りえ氏に浮上した疑惑》「危うい投資会社」への関わりを示す複数のファクト 本人は直撃電話に「失礼です」、維新は「疑念を招いたことは残念」と回答
週刊ポスト
筑波大学で学生生活を送る悠仁さま(時事通信フォト)
【悠仁さま通学の筑波大学で異変】トイレ大改修計画の真相 発注規模は「3500万円未満」…大学は「在籍とは関係ない」と回答
NEWSポストセブン
2025年7月場所
名古屋場所「溜席の着物美人」がピンクワンピースで登場 「暑いですから…」「新会場はクーラーがよく効いている」 千秋楽は「ブルーの着物で観戦予定」と明かす
NEWSポストセブン