こうしてストーリーの作り方を大きく方向転換したのと並行して、画面の構成の仕方も変えました。「週刊漫画ゴラク」で圧倒的な人気を誇る『ミナミの帝王』を徹底的に研究しました。
そこで、『ミナミの帝王』には3つの特徴的な手法があることに気づきました。
1つめは、強調したい場面では登場人物を大ゴマのどアップで登場させるやり方です。『ミナミの帝王』をご存知の方はわかると思いますが、あの作品では1ページひとコマのサイズで、主人公の顔をドカンと描いているページが多いんです。それで、僕も大ゴマ、どアップという手法を取り入れました。
2つめは、決め台詞を入れることです。これも『ミナミの帝王』の特徴で、必ず毎回1個は「○○やで!」などという、その話を象徴するような決め台詞が出てきます。そこで僕も無理やりでもいいからそうした決め台詞をぶち込むようにしました。
3つめは、比喩表現の多用です。たとえば『ミナミの帝王』のなかで、「あいつは蛇みたいなやつや!」というセリフがあれば、言葉を発している人物の顔の横に恐ろし気な蛇を描いてあるんです。蛇のビジュアルも一緒に付けると、驚くほどインパクトが出ることに気づかされました。それからは、比喩表現のセリフが出てくれば、必ずそのビジュアルを足すようになりました。
この3つの手法を取り入れていたら、ランキングがじわじわ上がってきて、これは効果があるなと感じました。それを続けていくうちに読者の支持を得られるようになったのです。
コンスタントにアンケートで上位にランクされるようになり、表紙を依頼されることも増えたのですから、効果は絶大でした。
ただ、こうした僕のやり方を「パクリじゃないか」と批判する人もいるかもしれません。でも僕は、そういう批判に対しては、堂々と「はい、パクってます」と言います。
僕は、子供の頃から何をするにも自分に才能があると思えたことはありません。そんな僕がときに成功できたのは、コツを掴んだからです。
絵のコンクールでは、最初に描いた絵が画面の中心に象徴的なものをどんと配置していて評価されたので、「ああ、こうすればいいのか」とそのやり方を踏襲して何度も賞をもらいました。子供の頃の僕は、たまたまうまくいった経験の中にコツを見つけました。
最初から世の中をあっと言わせるような結果を出して成功するのは、才能に恵まれたごく一部の天才だけです。でも、凡人であってもコツを掴めば成功することはできるんです。作品をそのままパクるのはいけませんが、何かに挑戦するとき、すでに成功している人のやり方を観察し、そのやり方を真似るのが一番の近道なんです。
僕は、『クロカン』を描き続けるなかで、そのことを確信しました。
(第3回に続く)