岐阜の「池田温泉旅館 たち川」が突然の閉鎖、事業者が夜逃げした(左は旅館のInstagramより)
のどかな田園風景に囲まれた岐阜県揖斐郡池田町。町の南部に位置する「池田温泉」は、地元の人だけでなく多くの観光客からも親しまれる天然温泉だ。
7月30日の夜、暗闇に包まれた温泉施設に併設された人気旅館「池田温泉旅館 たち川」には、定休日にもかかわらず煌々とあかりが灯っていた。
中で忙しなく作業するA氏が段ボールを次々と運び出し、入り口に止めた軽トラックとバンに詰め込んでいく。NEWSポストセブンの記者がA氏に話しかけると、同行した弁護士が記者の質問を遮り、こう言ったのだった。
「まあ、もういいんじゃないですか? 終わるんだから」——「池田温泉旅館 たち川」の、“夜逃げ”の瞬間だった。【全3回の第1回】
1泊4〜5万円の「超高級旅館」
「池田温泉」が位置する池田町は、古くは室町時代から“茶の町”として栄えた、歴史ある町だ。町について知るライターが語る。
「1988年、当時の竹下登内閣が発案した『ふるさと創生事業』で給付された『ふるさと創生基金』を活用し、町は1995年に温泉の掘削に成功。ヌルヌルとした肌触りの泉質が特徴のアルカリ性単純温泉で、翌年の『池田温泉』創業から多くの利用者を集めました。
年々増える利用客に応えるため、2003年には宿泊施設も備えた『池田温泉 新館』がオープン。以来多くの観光客が温泉に訪れるなど、町の観光産業の中心として機能してきました。本館と新館の1階にある日帰り温泉には日々地元のお年寄りが集まり、憩いの場となっているんです」
本館、新館の温泉はそれぞれ町が運営してきたが、その後徐々に観光客は減少。町は2019年、「株式会社たち川」に新館の2階・3階部分に併設されたレストランと宿泊施設の管理・運営を委託した。同年に誕生したのがレストラン「食事処たち川」と、宿泊施設「池田温泉旅館 たち川」だった。
「『株式会社たち川』のオーナー・A氏は地元出身で、医療関係を含めた複数の会社を運営する“やり手経営者”です。全ての部屋に部屋風呂を設置し、マイクロバブル炭酸が出る装置をおくなど、施設を一気にグレードアップさせました。
部屋によって異なりますが、部屋料金のみで1人あたり1泊2万円ほど、夕食・朝食の食事料金として2万2000円ほど、合計で4万〜5万円かかる『高級旅館』と姿を変えたのです。大手宿泊予約サイトのランキングでは度々1位になるなど、人気宿として評判を集めました。
また、旅館の運営を請け負ってから、A氏はブームに乗って『高級食パン』を扱うパン屋や喫茶店も開業し、旅館でパンを販売するなどグループ経営にも力を入れていた」
しかし、その内実は“崩壊寸前”だったようだ——「池田温泉旅館 たち川」の従業員は7月下旬、NEWSポストセブンの取材にこう打ち明けていた。