ミスターが田園調布の自宅で見せた“素顔”とは(時事通信フォト)
「ミスター」こと長嶋茂雄さんの勇姿や人柄は、野球人だけでなく取材者にも深い感動を与えた。巨人軍、そして長嶋さんと縁が深かった元日本テレビの大神いずみアナ(56)、馬場典子アナ(51)の2人が、ミスターの思い出を語り合った。【前後編の後編。前編から読む】
大神:自然に周囲を和ませてくれるだけでなく、公私ともに“気を遣わせない方”だったと思う。監督時代に選手だったうちの主人(元木大介)に聞くと、それは選手との付き合い方、距離感にも言えることだと。シーズン中、スタッフや選手と毎日食事する監督がいる一方、長嶋さんはあまりそういうことをせずにプライベートを分けてたって。遠征先で連敗した時は「今日は門限なしでみんな飲んでこい」と選手を送り出す。理想のリーダーというか、すごい監督だったと。
馬場:実は中日とのナイターの時、ランチに招待いただいたことがあるんです。名古屋城を望むホテルの広い部屋で、約束の15分前に伺ったら、長嶋さんはもういらしていて、画集を眺めていた姿が印象的でした。
大神:やっぱりめちゃくちゃお気に入りだよ! 何をお話ししたの?
馬場:緊張してほとんど覚えていないのですが、野球の話はあまりなく、雑談メインだったと思います。私のことを気遣ってくださって。大神さんこそ、2000年の結婚式の仲人が現役監督だった長嶋さんご夫妻って、すごいことですよね。
大神:いやいや、それは偶然というか違うのよ(笑)。もともと(長嶋)一茂さんご夫妻に仲人をお願いしようと話していたの。
それが一茂さんの思い付きで突然、「親父に頼んでみたら」と電話してくれて、二つ返事でお引き受けくださって。だけど、挙式披露宴まで1年くらい準備期間があったのに元木は緊張のあまり、結婚式の4日前まで監督に打ち合わせの話ができなくて。
馬場:かなりギリギリですね(笑)。監督、覚えてらっしゃいました?
大神:意を決してご相談したら「あ、そうだったね、大丈夫だよ」って。「ウチに来てよ」と田園調布のご自宅にご挨拶に行ったのが4日前。朝9時に来るよう言われていたので、8時半くらいから張り込みのように準備して、ちょうどに玄関チャイムを押した。
馬場:「ジャイアンツタイム(早く集合すること)」からのオンタイム。
大神:そしたらさ、奥様は我々が来るのをご存じなかったの。「さっき聞いたものだから何も準備できなくて」と通してくださったけどね。元木は監督を前に「メデューサに睨まれたの?」と言いたくなるくらい“石”のように固まって何も話せない。だから、私が緊張しながら喋りまくり。奥様は「うちは喜んで引き受けさせていただくので」と笑顔でお優しかった。
馬場:長嶋さんからは出会いのきっかけなどを聞かれたんですか。
大神:それは全然。お礼はお伝えしたけどあとは雑談だった。話題を探してお庭を見たら、向こうから犬が来たの。珍しいチンド犬で、監督が「はなちゃん!」って呼んだんですが、はなちゃんは監督の前を素通り(笑)。「とにかく私に懐かないんですよ。家内にしか懐かない」って。そこでちょっと緊張がほぐれた。
馬場:天下の長嶋さんも、はなちゃんからは素通りされるんですね(笑)。
大神:手作りのアップルパイをいただいたんだけど、ホールケーキの一部が欠けていて。奥様が「うちにはネズミがいるのかしらね~?」とチラッとみると監督はバツが悪そうにそっぽを向いてて(笑)。それまでスター長嶋の姿しか知らなかったのが、家庭人としての長嶋さんを垣間見ることができた貴重な経験でした。