ジャーナリストの西谷格氏が新疆ウイグル自治区の様子をレポート(本人撮影)
日中関係に緊張が走るなか、中国政府による強制労働や人権侵害の疑いがある新疆ウイグル自治区の統治にも国際社会から厳しい目が向けられている。統制下では何が起きているのか。『一九八四+四〇 ウイグル潜行』を上梓したジャーナリストの西谷格氏が、現地での様子をレポートする。【前後編の前編】
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日中関係に緊張が走るなか、中国政府による強制労働や人権侵害の疑いがある新疆ウイグル自治区の統治にも国際社会から厳しい目が向けられている。統制下では何が起きているのか。『一九八四+四〇 ウイグル潜行』を上梓したジャーナリストの西谷格氏は、現地で想像を絶する困難に直面した。
新疆ウイグルと聞くと、非常に恐ろしい場所というイメージを抱く人が多いのではないだろうか。
実際、日本のニュースで目にするウイグル情報は強制労働や拷問、レイプ、監視社会といったものばかりで、中国の負の部分がギュッと詰まった印象を受ける。
一方の中国政府は、欧米からの批判に対し「事実無根」と強気の姿勢を崩さない。これは一体、どういうことか。
私はかつて中国に6年住み、現在も中国関係の取材を続けているが、ウイグルをめぐる謎は近年深まるばかりだった。ならば現地のありのままの姿を見てやろうと思い立ち、2023年春、東京から西に4500キロ離れた新疆ウイグル自治区の首府ウルムチへと旅に出た。
ウルムチの街並みはシルクロードのイメージとは程遠く、ごく一般的な中国の地方都市と変わらなかった。幅の広い道路に数多くのビルが建ち並び、その隙間を埋めるように集合住宅が建っている。歩いている人の半数は漢族、もう半数はウイグル族などの少数民族で、駅や商店の看板にはアラビア文字とよく似たウイグル語が併記されていた。
現地で最初に目に付いたのは、漢族とウイグル族の間の明確な格差だ。宿泊先のホテルのフロントでは、中国語をうまく話せないウイグル族の女性スタッフが、漢族の上司から「えー何! 何が言いたいの!?」と叱責され、ため息をついていた。社会の中枢を漢族が握り、少数民族は使われる立場にあるという構図は、しばしば見られた。
強制収容は本当なのか。一説には、100万~200万人もの人々が収容所に連行されたと伝えられている。同地の少数民族の人口は約1200万人だから、ざっと10人に1人の割合だ。
だが、不思議なことに、現地の人々は強制収容に関する話題を徹底的に避けていた。そもそも、外国人である私と雑談を交わすことさえ、露骨に嫌がるのだ。辛うじて話ができても「知らない、分からない」と言い「何の問題もありません」と繰り返すばかりだった。
テュルク系民族であるウイグル族は、中東寄りの彫りの深い顔立ちをしていて、長年イスラム教の信仰を続けていた。だが、イスラム教徒を自認するウイグル族に話を聞いても「コーランは捨てたし、今は礼拝もしていない。アッラーとは何のことだ?」と言う。
モスクは事前に身分証を登録した少数の者だけが礼拝を許可され、滞在時間も厳しく制限されていた。イスラム教の象徴である三日月マークが取り外され、代わりに中国国旗が高々と掲揚されている。極端に観光地化されたモスクもあり、中国共産党の支配下に置かれたイスラム教は“神なき宗教”になっているようにすら見えた。