国内統計史上最高気温となる41.8度を観測した群馬県伊勢崎市。写真は42度を示す伊勢崎駅前の温度計。8月5日(時事通信フォト)
たとえそれが過酷な事柄であっても、「日本一」「日本唯一」はよく知らない人も惹きつける、魅力的なこととなりうる。1988年に青森県五所川原市が「地吹雪体験ツアー」を始めたとき、いったい誰が参加するのかと言われたが、40年近く続く名物となっている。このところ更新が続いている「観測史上最高気温」も、新たな「名物」になるかもしれないと、全国で期待が高まっているという。だが、猛暑を喜ぶ人たちは一部のようで…。ライターの宮添優氏が、猛暑を喜ぶ人たちと嘆く人たち、それぞれの事情についてレポートする。
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北関東で気温「42度」の予報が出ていた8月5日、群馬・伊勢崎市では41.8度を記録し、日本国内での観測史上最高気温を更新した。
「これで暑さ日本一! 観光客だって来るかもしれないね!」
こう話すのは、伊勢崎市内の商店経営者。日本一「暑い場所」になったと喜ぶのには理由がある。かつて、同じ県内の館林市は「40.9度」を記録し「日本一暑い場所」としてメジャーになると、テレビの取材や観光客が続々やってきて、商店は「暑さ」にちなんだ新商品を販売した。それを横目で見ていた伊勢崎市民の商店経営者だから、テレビ取材や観光客が「伊勢崎にやってくる」とほくそ笑んでいるのだ。
事実、41.8度を記録したこの日も、東京や大阪からテレビクルーが集結。最高気温を更新するのでは? と期待する一般市民も、伊勢崎市や高崎市、桐生市など気温の高そうな街に集まり、その様子は全国に生中継された。確かに、伊勢崎市はこれから「暑さ」を売りにしていくのかもしれない。
だが「暑さ」を売りに出来るのは、ごくごく一握りの人たちだけだ。
涼みにくる客たち
「朝からほとんど誰も通らない。テレビ局がウロウロしているくらいでね、このまま店を開けていたってしょうがないし、暑さで私も参っちゃった。お昼で閉めますよ」
「お年寄りの原宿」の異名で知られる、東京・巣鴨の衣料品店経営者は頭を抱えていた。通常であれば、朝から高齢の買い物客などでに賑わう巣鴨の商店街も、体温超えの灼熱とあっては人通りもまばら、どころか、高齢者の姿はほとんど見られないという。