ライフ

岡崎隼人氏『書店階段』インタビュー 「書店は世界の入口でもシェルターでもあり、僕にすれば不思議なことが起きる方が自然」

岡崎隼人氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

岡崎隼人氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

〈前作『だから殺し屋は小説を書けない。』を書いてから、書店員の知り合いが増えた〉と冒頭で語り始める〈私〉は岡山在住の小説家。その書店員や入社3年目の担当編集者〈菱川さん〉から〈岡崎さん〉と呼ばれる人物の新作の執筆過程を、岡崎隼人著『書店怪談』は虚実入り混じるモキュメンタリーホラーに描く。

 それは倉敷で行なわれたサイン会の後のこと。美観地区の天ぷら屋で菱川氏と食事をしながら、〈書店が舞台のホラーって、フレッシュじゃないですか?〉と新作の構想を明かしたのが全ての始まりだった。

 ただでさえ前作までには長いスランプを挟んでおり、専業でやっていくためにも、3作目はなるべく早く出したい。〈私は、必死だった〉。そこで知人の数だけ聞くことも増えた〈なんかいる〉、〈変なのが出る〉といった書店怪談の類を実話に近い形で小説化することを思い立ち、〈実際に全国の書店員さんから体験談を募集するのはいかがでしょう?〉と菱川氏も快諾。SNSでも広く投稿を募り、興味深い体験談が続々と集まった、まではよかったのだが……。

「経緯はほぼここに書いた通りで、集まった怪異譚もほぼ全部使ってます。もちろん細部を変えたり抽象化したりはしていますけど。因縁の村や古本屋でもなく、ごく普通の街の新刊書店やブックカフェを舞台にした点にも、ホラーとしての新味があると思っています」(岡崎氏、以下「」内同)

 本作を書くにあたっては、200作近いホラー作品を読み込み、研究を重ねた。

「子供の頃から角川ホラー文庫を読み漁っていたり、素地はあったんですけどね。ホラーにはホラーの作法がありますし。特に岡本綺堂やウェイクフィールド、倉橋由美子らのきらめく諸作品に、俳句のように繊細で、一字誤るとまるで怖くなくなるほど緊密な、ホラーの難しさを学びました」

 作中でも講談社内の各部署に声をかけた怪異譚は、まずは菱川氏のPCに届き、私がそれらを脚色しすぎない程度にリライト。〈うしろの客〉〈退職〉〈時間だよ〉等々、1つ1つは怪談ともつかない出来事の連なりに、接点や合理的背景を見出そうとする主人公や菱川氏の、距離のとり方が印象的だ。

「読者も概ねそうですよね。現代の合理性の殻が当たり前に備わった僕らが、非合理的な何かと直面した時に、その殻が1枚1枚剥がされ、人間性さえ脅かされてゆく。その感じが、言葉としては残酷だけども、ホラーとしての面白さや恐ろしさにつながるんだと思います」

 後に構想は当初の純粋な書店版百物語から、〈大きな謎解き〉が同時に進行するタイプの百物語へと移り、特に引っかかるのが方々で聞かれた〈子供の声〉だった。例えば漫画コーナーで男の子の声を聞いたという福岡の証言と、ふと見ると〈エプロンの紐〉が解けていたという新宿の証言に似たものを見た私は直接取材を敢行。福岡と新宿でなぜ同じ怪異が発生するのか、伝染か、移動か、増殖かと、考察を深めていくのである。

関連記事

トピックス

審査員として厳しく丁寧な講評をしていた粗品(THE W公式Xより)
《「脳みそが足りてへん」と酷評も》粗品、女性芸人たちへの辛口審査に賛否 臨床心理士が注目した番組冒頭での発言「女やから…」
NEWSポストセブン
12月9日に62歳のお誕生日を迎えられた雅子さま(時事通信フォト)
《メタリックに輝く雅子さま》62歳のお誕生日で見せたペールブルーの「圧巻の装い」、シルバーの輝きが示した“調和”への希い
NEWSポストセブン
宮崎あおい
《主演・大泉洋を食った?》『ちょっとだけエスパー』で13年ぶり民放連ドラ出演の宮崎あおい、芸歴36年目のキャリアと40歳国民的女優の“今” 
NEWSポストセブン
悠仁さまが2026年1月2日に皇居で行われる「新年一般参賀」に出席される見通し(写真/JMPA)
悠仁さまが新年一般参賀にご出席の見通し、愛子さまと初めて並び立たれる場に 来春にはUAE大統領来日時の晩餐会で“外交デビュー”の可能性も、ご活躍の場は増すばかり
女性セブン
大谷翔平選手と妻・真美子さん
《チョビ髭の大谷翔平がハワイに》真美子さんの誕生日に訪れた「リゾートエリア」…不動産ブローカーのインスタにアップされた「短パン・サンダル姿」
NEWSポストセブン
日本にも「ディープステート」が存在すると指摘する佐藤優氏
佐藤優氏が明かす日本における「ディープステート」の存在 政治家でも官僚でもなく政府の意思決定に関わる人たち、自らもその一員として「北方領土二島返還案」に関与と告白
週刊ポスト
会社の事務所内で女性を刺したとして中国籍のリュウ・カ容疑者が逮捕された(右・千葉県警察HPより)
《いすみ市・同僚女性を社内で刺殺》中国籍のリュウ・カ容疑者が起こしていた“近隣刃物トラブル”「ナイフを手に私を見下ろして…」「窓のアルミシート、不気味だよね」
NEWSポストセブン
石原さとみ(プロフィール写真)
《ベビーカーを押す幸せシーンも》石原さとみのエリート夫が“1200億円MBO”ビジネス…外資系金融で上位1%に上り詰めた“華麗なる経歴”「年収は億超えか」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している(Instagram/時事通信フォト)
《大谷翔平のハワイ高級リゾート裁判が長期化》次回審理は来年2月のキャンプ中…原告側の要求が認められれば「ファミリーや家族との関係を暴露される」可能性も
NEWSポストセブン
神田沙也加さんはその短い生涯の幕を閉じた
《このタイミングで…》神田沙也加さん命日の直前に元恋人俳優がSNSで“ホストデビュー”を報告、松田聖子は「12月18日」を偲ぶ日に
NEWSポストセブン
高羽悟さんが向き合った「殺された妻の血痕の拭き取り」とは
「なんで自分が…」名古屋主婦殺人事件の遺族が「殺された妻の血痕」を拭き取り続けた年末年始の4日間…警察から「清掃業者も紹介してもらえず」の事情
(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
熱を帯びる「愛子天皇待望論」、オンライン署名は24才のお誕生日を節目に急増 過去に「愛子天皇は否定していない」と発言している高市早苗首相はどう動くのか 
女性セブン