近畿大学野球部の前監督・田中秀昌氏
新人で4番に据えたのは「将来への先行投資」
4年春は関西学生野球リーグがコロナ禍で中止ながら、4年秋には同リーグの通算本塁打記録を更新し、阪神に入団する。当時の矢野燿大監督もその飛距離には舌を巻いた。
「新人の春季キャンプで佐藤を見た時、これは凄いなと思いましたね。沖縄のグラウンドで見たことがないところまで飛ばすし、打球の高さも外国人選手に引けを取らなかった。遠くに飛ばすポテンシャルがちょっと抜けているなと感じました」
開幕は6番・ライトでスタメンに。2戦目でプロ初本塁打を放つ。5月には、大山悠輔の休養日に初の4番に起用され、満塁ホームランを打った。
「新人で4番に据えたのは評価というより、将来への先行投資でした。3番ではなく4番の打席に立って初めて気づくこともある。少しでも多く経験させてやりたかった」
矢野氏の述懐から首脳陣の期待の高さがよくわかるが、そこから佐藤は壁に突き当たる。7月以降は成績が落ち、8月に田淵幸一氏の球団新人最多本塁打記録を更新するも、スランプで9月には二軍落ち。矢野氏が言う。
「それまで当たり前のように一軍の試合に出られる状態にしていたんですが、出られないなかで自分を見直す時間も必要なんですよね。新しい気づきを得る時間にしてもらいたい。そういう気持ちで二軍に行かせました」
チームの中核を担うと確信しての扱いが続いたが、期待の大きさのわりには、矢野監督時代も岡田監督時代も、シーズンを通じて爆発的な活躍を見せるには至らなかった。
それが今季は大きく変わったと評価されている。
もともとの武器だったスイングスピードに磨きがかかったと指摘するのは、スポーツジャーナリストの広尾晃氏だ。
「本塁打にした球種の内訳で、スライダーが昨年までの12.5%から今年は18.8%へと大きく上昇。曲がるボールで芯を外されてもスイングスピードの向上によりスタンドインしていると考えられ、大谷翔平のような“当たり損ねでも本塁打”の境地に近づいてきた」
一方、阪神OBの田尾安志氏は「ボールを追いかけるのではなく、自分のミートポイントまで球を呼び込んで捉える打席が増えた。昨季までは空振りをしていたボール球を見極められるようになっている」と指摘した。
こうした技術的な進化には首脳陣が期待してかけた言葉も投影されているようだ。矢野氏が言う。
「監督時代によく“お前には振る怖さがあるが、振らない怖さがない”と伝えていました。インコースの高めや低めのフォークを振らないといった、誘い球に手を出さないことで相手投手は怖がる。これまで佐藤にはその怖さがなかったが、今年はあります。ボール球を振らない我慢が続けば打率もついてくる。三冠王の可能性もあるし、獲ってほしいと思っています」