矢野燿大監督(左)と佐藤輝明(2020年の入団会見)
LINEで好調の理由を尋ねるとすぐ返信が
一方、チームの独走で別の懸念も出てくる。阪神のヘッドコーチ、編成部長を歴任した黒田正宏氏は「独走のチームでは個人記録狙いに走りがち。佐藤は今年、“得点チャンスにタイムリー”という意識で結果を出してきたが、シーズン40本といった記録を狙う意識が強くなった時にどれだけボール球に手を出さずにいられるか。精神面も問われてくるでしょう」と指摘する。
実はプロ入り前の佐藤は、人間性に課題の多い選手だったという。近畿大で4年間指導した前出・田中氏が言う。
「よく言えばマイペース、はっきり言えば遅刻が多かったんです。掃除も適当。プロでやるには技術だけでなく心掛けも大切なので心配でした」
田中氏はプロ入り前の佐藤に「感謝と謙虚さを忘れるな」と告げ、監督時代の矢野氏も「野球で結果が出さえすればいいということではいけない」と根気強く伝えたという。
ただ、矢野氏は佐藤をこうも評した。
「すごく素直です。ひねくれたところがなく、言ったことをちゃんと理解する。フォームの研究もしっかりやっています」
そうして多くの指導者の考えに触れ、成長してきた。田中氏はこう見る。
「仁川学院ではうるさく言われず、近大では僕らに厳しく言われた。プロでは矢野監督が比較的穏やかで、岡田監督がかなり細かくて厳しい人でした。そして再び穏やかな藤川監督になった。そのメリハリが結果につながっているのではないか。
矢野監督時代はユニフォームの第一ボタンを外していたんです。LINEで注意したのですが、半年以上既読にもならない(苦笑)。それが岡田監督に代わった秋季キャンプでは第一ボタンをとめていた。藤川監督になってもそれを続けています。もともと野球には研究熱心ですし、厳しい指導を経て人間的にも成長したと感じられました」
田中氏は今年5月にも、佐藤にLINEを送っている。好調の理由を自分ではどう分析しているのか尋ねたところ、今度はすぐに返信があった。
〈バッティングフォームに対する理解が深まっているのが要因だと思います〉
田中氏が言う。
「研究好きな佐藤らしい表現で、間違いなく何かを掴みつつあるのでしょう。選手としても、人としても、まだまだ伸びると確信しました」
殻を破った大器が、阪神を2年ぶりの頂点へ導こうとしている。
(前編を読む)
※週刊ポスト2025年9月12日号