日本代表と記念撮影をする 織田裕二、今田美桜、K(TBS陸上のインスタグラムより)
ホリケンの振りに応えて「キター!」
織田さんは『ジョブチューン』でも、吉田沙保里さんのタックルを受ける役を引き受けつつかわしてボケたり、ネプチューン・堀内健さんの「織田裕二がジョブチューンに……」という振りに応えて「キター!」と発したりなどサービス精神満点。
自分が過去に発したコメントや芸人のボケに「どうでもいいんだよ!」などとツッコミを入れるシーンも目立ちましたし、自然体で楽しもうとしている様子が視聴者にも伝わっていました。制作サイドから見ても、とにかくリアクションがいいので、台本にないサプライズを仕掛けたくなりますし、現在の織田さんにはそれを笑顔で楽しむ心の余裕があるのでしょう。
もちろん俳優らしく『踊る大捜査線』『東京ラブストーリー』『振り返れば奴がいる』などの名作秘話を明かすなど、大物らしい引き出しの多さを見せた番組もありました。織田さんと言えば、現場で提案を重ねるなど情熱的な姿勢で知られていましたが、それを振りにして「今は現場で“巻く”ことが命」と脱力した笑いを誘うなど、硬軟織り交ぜたトーク術を感じさせられます。
織田さんは『日曜日の初耳学』の最後で「仕事をする上で大切にすること」を聞かれた際、「昔は『仕事を楽しむって何なめたこと言ってるんだろう。真剣勝負の場だろう』って思ってましたけど、楽しんだものが勝つ。だって『人生、何が最終目的か』って僕は幸せになること。一番時間を占めているもの(仕事)を楽しいと思えたら幸せじゃないですか」と語っていました。
このような心境の変化があったからなのか、今回の番宣出演も「出なければいけない」ではなく「出て楽しもう」という姿勢がはっきり表れていましたし、ネット上の反応を見る限りそれが好感度につながっています。
「嘘がない」「本音で語れる」信頼感
では今回の番宣や『世界陸上』への出演は織田さんにどんな影響をもたらすのか。番宣を楽しむ姿を見て気になり、急きょ各局のテレビマンに取材してみました。
すると最も多かったのは「表情やリアクションに嘘がないのがいい」という声。その「嘘がない」は情報量が増えて賢くなった現在の視聴者がタレントに最も求めるものであり、あらゆるコンテンツに信頼感をもたらすものと言われています。実際、『マツコの知らない世界』で織田さんがマツコ・デラックスさんと本音で語り合う様子は説得力を感じさせられました。「嘘がない」「本音で語れる」という点で織田さんは令和という時代に合う芸能人なのかもしれません。
その他でもテレビマンたちから、「大物ならではの特別感は変わらないのに、『出るからには楽しもう』としてくれるのはありがたい」「かつては『扱いづらいんじゃないか』という噂もあったけど、若手俳優ともうまくやってるようだし、若手スタッフともうまくやってくれそう」「今の織田さんなら『地球に生まれてよかったぁー』『霊長類なめんな』に続く名言が生まれるのでは?」などのポジティブな声があがりました。
織田さんはデビューから38年の57歳。ハイテンションな姿が「うるさい」「邪魔」などと批判された時期を乗り越え、一周回って『世界陸上』に不可欠な存在と認識されたように、いち芸能人としても再評価されそうなムードを感じさせられます。
来年には映画『踊る大捜査線』続編の公開も予定されていますが、その際の番宣出演はもちろん、その他の番組でも織田さんが楽しそうに笑う姿を見られるのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。