ライフ

【新刊】緩和ケア病棟で生と死を見つめる医療小説としても説得力十分、藤岡陽子氏『春の星を一緒に』など4冊

シングルマザーと2コ年上の医師。それぞれ抱えたものが優しく溶け合う

 読書の秋。さまざまな本に触れて、人生を豊かにしましょう。おすすめの新刊4冊を紹介します。

『春の星を一緒に』藤岡陽子/小学館/1980円

 離婚して丹後半島の実家に戻り、父と高2の息子・涼介と三人で暮らす看護師の奈緒。涼介は苦労して医師になった三上に影響されたのか、医学部を目指すと言い出す。舞台は物語の中盤で東京に移るが、大きく言うと、知縁や血縁のドラマが数珠繋ぎの慈雨となって大輪の花を咲かせる物語。緩和ケア病棟で生と死を見つめる医療小説としても説得力十分。読後の幸福感は格別だ。

タクアン、コロッケ、チクワ天。庶民の胃袋をつつく落語的な文章芸

『あれも食いたいこれも食いたい 丸かじりヒットパレード』東海林さだお/朝日新聞出版/2200円

 なんでも丸かじりの章ではゴーヤの丸かじりという荒行もあれば、お姫様抱っこしてしまうほど好きだと告白する桃も。桃のイラストには魅入ってしまう。一筆書きながら滴るような官能とエロス。画伯の実力を思い知る。週刊朝日で36年続いた連載から選りすぐった77編。ミシュラン店だってご存じでしょうに、コロッケや鰺フライなど庶民派に徹したところが人なつっこい。

仲間や仲良しになったりしなくていい。「居ればいい場所」がある安心感

『相談するってむずかしい』文・青山ゆみこ 漫画・細川貂々/集英社/1870円

 自分の絶不調と脱出を書いた青山さんの『元気じゃないけど、悪くない』のその後を綴る。コラボする細川貂々さんとの共通項は二人とも寄る辺なかったこと。自分が安心できる場所を作り始める。当事者研究やオープンダイアローグなど言葉の概念は難しいが、相手を否定しない、アドバイスしないなど、互いを無条件に受容する場だ。居場所探しをしている人の参考にもなりそう。

犯人を知って再読すれば、また別の物語が立ち現れる夕木マジック

『十戒』夕木春央/講談社文庫/913円

 19歳の里英は父や観光開発業者ら9人で伯父の遺した小島に渡る。が、翌朝メンバーの中の一人が遺体で発見される。島外脱出禁止、通信機器所持禁止、犯人探索禁止など犯人の命じる「十戒」がこの島を密室状態に。この文庫の解説で青柳碧人氏は本書のラストを『太陽がいっぱい』のラストと重ねるが、分かります! あの哀愁に満ちた映画音楽のメロディ、確かに流れています。

文/温水ゆかり

※女性セブン2025年9月25日・10月2日号

関連記事

トピックス

佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
若隆景
序盤2敗の若隆景「大関獲り」のハードルはどこまで下がる? 協会に影響力残す琴風氏が「私は31勝で上がった」とコメントする理由 ロンドン公演を控え“唯一の希望”に
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン