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【書評】『「自分が嫌い」という病』 回り道で得られる人間への深い理解が人生を導く

『「自分が嫌い」という病』/泉谷閑示・著

『「自分が嫌い」という病』/泉谷閑示・著

【書評】『「自分が嫌い」という病』/泉谷閑示・著/幻冬舎新書/1034円
【評者】堤未果(国際ジャーナリスト)

先の参院選の後、落選した候補者達は皆、こんな言葉を口にした。「有権者の方々の期待に応えられず、誠に申し訳ありませんでした」。スポーツ選手は試合の前に「応援してくれる方々の期待に応えられるよう頑張ります」と言い、ファンの期待を裏切らないよう努力する芸能人は、長年スターの座に居続ける。

空気を読み合う村的な資質を持つ日本では、自己主張より、支えてくれる他者の思いを気遣う謙虚な姿が、美徳として称賛されるのだ。だが本当にそうだろうか。「自分を好きになれない」と悩む人口が増えるいま、著者は、惑わされてはならないと警鐘を鳴らす。「期待」という言葉の正体は相手の「欲望」、「エゴ」であり、応えようとし続けると自分自身を見失ってしまうのだと。

最も顕著に現れるのは親子関係だ。絶対的存在である親から子へ、「期待」という形で欲望を押しつけられる代償は限りなく大きい。親に受け入れられようと、嫌なことを嫌と言えずにいると、子供の感情は麻痺し喜びや好奇心も感じられなくなる。親を否定できない代わりに自分を否定する事で失われる自己肯定感も【自己否定は向上心の証】という日本的根性論がその有害性を隠してしまう。

親は神でも悪魔でもなく不完全な人間だという客観的視点を持ち、家族という幻想や「べき論」から離れ能動的に他者を愛することで、誰もが再び自分軸を取り戻せると著者は言う。

回り道は決して無駄でなく、そこで得られる人間への深い理解こそが、この先の人生を導くのだと。それはデジタル化が進み、効率やスピードが正義とされ、極端な二元論が暴走しつつあるいまだからこそ、私達が人間性を失わず、愛することを学ぶための、貴い処方箋だろう。世界は不完全だからこそ美しく、そこで起きている現象は、すべて私達自身の投影なのだ。

※週刊ポスト2025年9月19・26日号

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