島の農協スーパーでは、天日塩を量り売りしている。「日本の原発汚染水放流以前に生産された」という注意書きも
塩を土産代わりに袋に詰めてくれた塩田主の女性
「塩田に真水が入ると、乾いて抜け切るまで1か月くらい時間が無駄になるし数千万ウォンの損害が出てしまう。繊細な作業なんだ。だからこそ、失敗しないよう作業員を厳しく叱ることもあった。そんなの、どの仕事にだってあることだろ。メディアで言われているような酷い暴行はなかった。誇張だよ」
男性は憤った様子で続けた。
「むしろ、親のほうが子どもを島に売ってたんだ。塩田側から親に年間500万ウォンを払ってたんだよ。島は子どもを食わせて寝泊まりさせてやって、タバコも買って面倒みてやった。なのに、そういうことは全く報道されていない。当時大統領だった朴槿惠(パク・クネ。第18代大統領)が島を潰そうと仕組んだんだ。もし責任があるとすれば、子どもを売った親が7割、塩田は割だ」
男性の言葉尻からは、地域と朴政権の根深い確執も窺えた。朴槿恵氏の父・朴正熙元大統領の時代から、都市開発の恩恵が慶尚道(キョンサンド。朝鮮半島南東部一帯の地域)にばかり集中し、1980年の光州事件(軍事政権に抵抗する民主化運動)以降は自分たちの地域が冷遇されてきたという意識があるのだろう。
また、前出の“豪邸”に住んでいた人たちと似たような発言からは、あることが気になった。事件に関する公的な記録や判決をいくら調べても、「親が子どもを労働力として島に売った」という証言は確認できないのだ。
しかし、こうも島民がこぞって「親が子どもを島に売り飛ばした」ということを口にするからには、そのような非公式の事実があったのか、それともなんらかの認識の“グラデーション”が存在するのか──。こうした疑念を抱きながら、「奴隷島」での1日は幕を閉じた。
<取材・文/安宿緑>
【プロフィール】
安宿緑/編集者、翻訳者、ライター。メンタルを軸に社会問題を分析するのが趣味。韓国心理学会正会員。