JR横浜線の小机駅から西へ徒歩3分ほど歩くと街道沿いの商店街に『Rapporti(小泉酒店)酒屋とシェアキッチン』がある。
3代目店主の小泉将希さん(49歳)と姉の酒井律子さん(54歳)のふたりが店を盛り立てる。
律子さん(右)と将希さんの姉弟が明るく迎えてくれる
間口も奥行きも広く、天井も高いゆったりとした空間が気持ちいい。風通しの良い雰囲気のなか、日によってはキッチンの貸し出しをしていて、そのメニューを角打ちでもつまめることが特徴。「珍しい料理のいい匂いがしてきて、つい『それちょうだい』となるのもいい」と常連(60代/IT系)も楽しみにしている。
将希さん曰く「人の出入りが多くて情報が集まる、街の回覧板のような場所」として盛り上がる店内だが、現在の形になるまでには、多くの変遷があった。
律子さんによると、「初代が街道沿いで商売を始めたのは、昭和10年。戦中戦後は小机地区の配給所のひとつを担い、地元の酒販組合の理事を務めていました」。
小机はもともと農家と職人の町。湧水と水路に恵まれ農業が盛んで、横浜に近いため障子の職人や表具屋、畳屋、左官など“流しの職人”も多く、角打ち文化も根付いていた。
ゆったりした店内で仲間と飲めば自然と顔もほころぶ
やがて、戦後の好景気で宅地開発が始まり、ディスカウント店が進出。酒販店では太刀打ちできず、2代目は、コンビニエンスストアへと業態を変更。この店の広さは、コンビニ仕様に由来している。
1998年には、国内最大の横浜国際総合競技場が完成。サッカーW杯の決勝や、大規模コンサートが開催され、何万人もの来訪者がこの町を訪れるようになった。
「コンビニを23年続けた後、代替わりの際に、酒屋へ戻る決断をしたんです。思い切った改造をして、昭和ノスタルジックな角打ちを6年やりました」(律子さん)
2024年にモダンな打ちっぱなしのデザインに再改装。地元のペルー人家族が郷土料理を振る舞ったり、ショコラティエがチョコレートの仕込みに使うなど、シェアキッチンの活動も軌道に乗りつつある。
今宵の賑わいを楽しむ女性客のひとり(50代)は、「地元の生まれ育ちなので、ここが古い酒屋だったころから知っているけど、まさか自分がここで飲むようになるとは思わなかった。毎日来たいけれど、週3~4回になんとかとどめてる! 存在感が大きい店なの」と盃を傾ける。
「ここはいまや、心身の“よりどころ”。お母さんが『いつもご贔屓にありがとう』とおっしゃっていたのもよく覚えてるし、姉弟が育っていくドラマをずっと見てきたからね」という女性はさらにこう続ける。「弟の将希さんは、カップ麺を作らせたら右に出るものがいないくらい、びっくりするほど美味しく作るんだから」。
手作り料理やスナックも充実のラインナップでお酒が進む