スリランカの神殿、スペインの巡礼路。世界各地で祈る30〜50代の女性達
いよいよ気温も下がり、寒くなってきたこの季節。部屋の中でゆっくり読書でも過ごしてみては? おすすめの新刊4冊を紹介する。
『神さまショッピング』角田光代/新潮社/1760円
“神さまに会いに行く”がテーマの短編集。アジアの非贅沢旅をよくしていた角田さん自身の体験が描写に反映されている。17年を経てミャンマーを再訪する「私」の変化、インド旅行中、精神世界に目覚めた夫の一言で黒い感情にのまれる奈保美、ある罪悪感から、あらゆる神々を訪ねてしまう表題作の吉乃。祈りで安寧は得られるの? 不安と焦燥を隠して生きる私達の物語だ。
後のない芝の焦燥、やり過ぎた大島の失態。進路を違えた青年2人の、それぞれの領分
『おまえレベルの話はしてない』芦沢央/河出書房新社/1815円
主人公は芝と大島。静岡の小学生だった2人は奨励会で切磋琢磨し、9年前の高2の冬に進路を違える。「逃げるのか」と号泣する芝に、「おれは逃げる」と答える大島。本書は芝の章と大島の章に分かれ、この場面は両者の目で描かれる。いま五段で棋士生命の崖っぷちに立つ芝、東大卒の弁護士となった大島。それぞれの領分で苦悩する青年同士の姿もせつない異色の将棋小説だ。
嗚呼、じれったい。10月末の下巻の発売が待ちきれないではないですか
『映画は予告編の後に始まる(上)』藤原嗚呼子/小学館/770円
映画大好き高校生だった奏多。卒業して15年、タイムカプセル開封式があると知り京都に向かう。奏多の初恋の人、春田茜は卒業前の映画撮影の途中で亡くなっていた。開封当日カプセルからその茜の入れたビデオテープが出てくる。映画の制作過程を記録したそれには謎があり、仲間達は茜の死の真相を追い始める。ノスタルジー+ミステリーの仕掛けが魅力的。読者を離さない。
「最高の純文学は最高のエンターテインメント、最高の娯楽作品は最高の言語芸術」(本書の名言)
『私のことだま漂流記』山田詠美/講談社文庫/803円
自伝小説と自伝的小説では後者のほうが“加工”が多いのかも。本書は正真正銘の自伝小説で、デビュー作でこの作家に夢中になり、折々の随筆も読み継いできた者としては、なんて加工の少ない小説なのと驚いてしまう。幸福な家の少女時代、漫画家修業時代、デビュー後のいわれなきバッシング、直木賞受賞、結婚、離婚、再婚。言葉に鋭敏な感受性を持った女性の自立の記。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年11月6日号



