給油だけで済まなかったガソスタ勤務
客はガソリンスタンドに何をしに来るのか。車にガソリンを入れにくる。当たり前だ。だから客に望まれる通り給油していたら文句を言われることはない。そう思っていた。
ぼくは給油スタッフのような仕事を「不特定多数の客と接する仕事」と表現している。この仕事では、ぼくにとって、とんでもないと思えることがよく起こるのである。
「軽油70リットルと言ったよな!」と、トラックの運ちゃんにきつく文句を言われた。
給油機の表示は69.99リットルであった。しかもこの客が軽油の満タンを指定したのだ。ぼくは給油ノズルのレバーを引いただけ。満タンになり給油機が自動で止まったのである。
だが、「ほぼ70リットルの軽油が入っている」という理屈は客Aには通じなかった。その客は不満たらたら顔で帰って行った。
「給油機が止まってから、あと2リットルほど入るんや」
客Bは、ぼくから給油ホースをひったくり自分でさらに給油しようとした。
給油ノズルの先端部分にガソリンが跳ね返ってくると、給油は自動で止まる仕組みになっている。そのため満タンにしようと思えば、給油ノズルをあまり奥まで差し込まないことがコツである。ぼくはそういう工夫までして「ほぼ満タン」にしているのに、客Bは「超満タン」にこだわる。しかもぼくに「おまえ給油下手くそやな」という態度を取った。
「あっ、またあかん。へぼい機械め。あんたやって」
客Cはとてもイライラし、機械を足蹴りした。
機械で油種を指定するのは客である。客Cはレギュラーを入れたかったのだが、油種の選択画面で手が震えて軽油を押してしまうのである。3回操作をして、3回とも押し間違えた。そして自分で我慢ならなかったのか、機械にあたったのである。
ぼくは警戒して見ていたが、客Cはそれほど狂暴に感じなかったので、丁寧に助けてあげた。
給油後、プップーとクラクションを鳴らして客Cは帰って行った。ぼくへのお礼なのか。それともまた手が震えてクラクションを鳴らしてしまったのか。
勤務中、どういう客と接するかわからない。このことにより、ワーカーが精神にダメージを受けるおそれがある。世間ではカスタマーハラスメントともいう。
ぼくは経験則として、不特定多数の客と接する仕事にはあまり就かないほうがよいと思うようになった。深刻に心を傷つけられるリスクというよりも、客の常識外の言動が煩わしいからだ。
(第2回に続く)