クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左/バトル・ニュース提供)
クマによる人への被害を熊害と呼ぶ。三毛別ヒグマ事件、石狩沼田幌新事件、福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件などはとくに知られる熊害だろう。いずれも20世紀の話かつ北海道のヒグマによるものだが、近年は本州および四国の山間部に生息するおなじみのクマ、ツキノワグマの被害が多発している。
ツキノワグマが各地で人間を襲い、ときに殺す。臆病で、大人しくブナやらドングリ、ふきのとうやらを食べることが大半のツキノワグマとされるが、死者4人を出した2016年の十和利山熊襲撃事件など、後述するがその殺傷能力は侮れない。
筆者は妹が岩手県南西部の山間に嫁いでいる。ツキノワグマの生息域だ。笹崎レフェリーが襲われた北上市も近い。
聞けばこの地域の子どもたちは対人の防犯ブザーというより熊よけブザー、熊よけの鈴を持つとのことで、まあ彼女の嫁ぎ先は山の中なのでそれも当然かもしれないが、実のところ山の中がどうだ、登山がどうだは関係なくなりつつある。岩手県など東北地方だけの話でなく、関東地方でも群馬県沼田市のような住宅街はもちろん、東京都の八王子市や青梅市でもツキノワグマの目撃情報がある。
ツキノワグマも人間を狩ることにかけてはヒグマに負けてはいない。時速40km以上で走り、雑食性で何でも食べる。もちろん、人も。
岩手県で農業を営む男性(80代)は自身の経験からこう語る。
「ツキノワ(グマ)は臆病でよっぽどのことがなければ人を襲ったり、ましてや人を食ったりはめったに無かった。畑を荒らしたり、いたずらしたりはあったが俺のことを見ればすぐ逃げた。タヌキとかシカと変わんねえ」
しかし近年は違うと語る。「おかしいんだ」とも。
「あいつら、逃げねえんだ。人馴れしてるのかどうか。町(役場)には報告したが、こっちを食いたそうにみてたな、冗談じゃねえ、獲物って目で見んだ。こりゃやばいと距離のあるうちにその場を離れた。あれが特別なツキノワかどうかは知らんが、そういうおかしいのが出始めているんじゃないか」
彼の印象でしかないが実際、これまでの熊害とは数がまったく違う状態にある。毎日のようにツキノワグマに襲われた人々のニュースが報じられる。
