2020年6月、4人がクロスボウで撃たれた兵庫県宝塚市の現場付近を調べる捜査員(共同通信)
まずは、過去に受けた知能試験の結果を紹介する。11歳時の指数が「106」、18歳時の指数が「120」といずれも平均値の「100」を超えている。被告人は大学に入学し、アルバイトも経験するなど、通常に社会に馴染んでいた。心理検査においても、精神状態が悪化する中でも、時間をかけたら問題に対応していたという。
しかし、苦手な分野もあった。「心の理論」と言われる試験で、9割の問題を間違えていたという。これには被告人が、相手の言葉や意図を汲み取る能力に乏しいことを表している。柔軟性の低さ、粘着性、そしてその一方で繊細さも見られたという。
木の絵を描く「バウムテスト」も行われた。1本の木を描くことで、その人の思考のクセや深層心理などを分析する。被告は1時間以上かけて詳細に描くこだわりを見せたという。こうした様子からも「強迫観念、粘着性、その一方で繊細な面を持ち合わせている」などという分析も語られた。
その他、「SCT(文章完成法テスト)」も実施されたという。未完成の文章、例えば「子どものころは」とだけ提示され、残りを受検者に答えさせるといったテストだ。医師によると、被告の回答内容はほとんどが家族に関するものだった。しかしそこにも母への嫌悪感が表現されており、
「子どものころは」に対して「一人だった」
「嫌いなのは」に対して「母」
などといった回答があったという。
最終的な結論として、被告人には自閉スペクトラム症、強迫性障害の症状が認められた。一方で3名の証人の見解は、「これら症状は犯行動機の形成過程に影響を及ぼしているものの、最終的な動機は積み重なった家族への感情が原因で、違法性の認識などに問題はない」という点でもおおむね一致している。
これまでも法廷で被告人から被害者らへの謝罪の言葉はなく、その犯行の様子からも躊躇などは感じられないように思えた。一方で、鑑定人は被告人に「犯行への躊躇」があったと説明した。
ある証人が一つのエピソードを紹介する。野津被告は裁判以前に入院して、投薬治療中に痙攣発作を起こしたことがあったという。朦朧とするなかで、弟に対して「悪かった」と謝る場面があったという。これは心の奥深くでは事件を後悔しているが、平時では被告人自身もその感情に蓋をし、気付いていない可能性が指摘された。
事件の判決後には、被告人に矢で射られ重傷を負いながらも唯一生き残った叔母も「決して、障害や特性を持つ方は危険であるということではありません」、「どうか、障害や特性について誤解がなされないように願いたいです」とコメントしている。
私も報道に携わるものとして、そういった誤解がなされないように一層の注意を払いたい。
