釣り人が襲われた場所は見通しがよく、不意の遭遇ではなく熊が狙って近づいたとみられる

釣り人が襲われた場所は見通しがよく、不意の遭遇ではなく熊が狙って近づいたとみられる

遺体を回収する人間を「餌を奪う敵」とみなし襲う熊

【トンガリ川釣り人襲撃事件】
発生年月日:1999年5月8日
発生場所:北海道木古内町
犠牲者数:死者1名、重傷者2名
熊種:ヒグマ

 1999年5月8日、一人で渓流釣りに出かけた男性が夜になっても帰ってこなかったため、家人からの捜索願が出された。北海道警が付近を捜索したところ、顔や首、腕や胸のあたりまでを喰われた状態で男性は発見された。

 遺体は木古内川の支流であるトンガリ川の岸辺の大きな岩の陰に隠すようにして置かれていた。のちの検死で死因は外傷性ショック死とされた。遺体の足先は水深10センチほどの流水に浸かって真っ白く変色していたという。

 近くには深さ1メートルほどの窪地があり、熊はそこに身を潜めながら遺体=餌の様子を見張っていたものと思われる。

 被害者は、靴とズボンが一体となったゴム製の防水ズボンを穿いていたが、その両脚の靴の部分は引きちぎられ、着衣は全体的に頭の方向へめくれ上がっていた。このことから熊は男性を襲って殺したあと、“エサの保存場所”まで足をくわえて引きずってきたのだと考えられた。

 猟友会員らが被害男性の遺体の収容をしようとしたところ、川の向こう岸のやぶから熊が現れて、「餌を盗むな!」とでも言わんばかりに真っ直ぐ川の中を突進してきた。猟友会員らが発砲すると一度は林に逃げ込んだが、その後に射殺された。

 なお同日、男性の遺体が発見される前、この付近で女性2人が同じ個体と思われる熊に襲われていた。

 トンガリ沢林道を巡視していた警察車両が、女性2人の運転する軽トラックを見つけて事情を聞くと山菜採りに入山したところを襲撃されたのだという。

 被害男性の遺体があることを知らずに近寄ったことで、熊が女性たちを「餌を奪いにくる敵」と認識し、攻撃したのだった。2人は熊避けの鈴を鳴らしながら山中を歩いていたというが、それもおかまいなしだった。

 女性たちはそれぞれ頭や首に咬みつかれ重傷を負ったが、持っていた杖を振り回すなどして命からがら逃げ出したという。

 男性が「餌として食べるため」に襲われたのに対し、女性たちは「餌から追い払うため」に襲われた。その違いが命運を分けたのかもしれない。

 とはいえ女性の一人は後頭部の皮膚を髪ごと引きちぎられていて、後日に皮膚の移植手術を受けたほどの大ケガだったという。

取材・文/早川満

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