普段は穏やかな性格のテツ
「無傷では済まないかもしれないと思いましたが、自分がやるしかないという思いでした。私は鉄製のジャッキの柄を思い切り振り上げて、クマに叩きつけました。頭を狙ったのですが、揺れながら来るからズレてクマの左肩にぶつかった。タイヤのような鈍い感触で……。人間なら骨が砕けてかなりのダメージになるかと思いますが、クマはうめき声一つあげなかった」
しかし流石に驚いたのか、クマはそのまま逃げるようにいなくなったという。あたりにはテツとクマが死闘を繰り広げたとみられる黒ずんだ血飛沫が、敷地内のあちこちに飛び散っていたと言う。
「テツは強かった。自分よりも大きなクマを相手に怪我をしながらも、家族のために戦ってくれました。テツかクマかは分かりませんが、車にはどちらかが叩きつけられたような血の塊がこびりついていたんです。激しい戦いだったんだと思います。本当に大事に至らなくてよかったです」
その後、娘と妻が通報した警察が現場に到着した。
「警察が到着して『もう大丈夫だ』と思ってから初めて、安堵から足がガクガク震えました。私自身、スポーツを本格的にやって怪我にも慣れていたし、総合格闘技の経験もあるんです。それでもかなり興奮していたのか、記憶は写真みたいな静止画で断片的に残っています。結果的に無事だったから言えることでもありますが、もし私が外に出ずに、テツが命を落としていたら、家族全員が一生後悔していたと思います」
怪我をしたテツを労りながら、朝方まで寝られずに家族全員で過ごした。
