待ち焦がれていた12年ぶりの新刊。脇役までキャラ立ちする戦国群像劇
年末の忙しさに余裕がなくなってしまう人も多いのでは? そんなときこそ、読書でもしてリフレッシュしてはいかがでしょうか。おすすめの新刊4冊を紹介します。
『最後の一色』上・下巻/和田 竜/小学館/上巻2100円・下巻1900円
物語の舞台は戦国時代の丹後。長岡(細川)忠興が一色五郎を見かけた時、二人は共に十七歳。忠興は嫉妬や羨望、畏怖もまじる感情で偉丈夫の五郎を好敵手とみなす。上巻のハイライトは信長が催した馬揃えの壮観と本能寺の変、下巻のそれは忠興が謀って妹婿の五郎を惨殺する場面。登場人物の一人一人の描き分けも見事なら、史実と史実を小説の想像力で繋ぐ構成にもうなる。
「異次元の少子化対策」など強さを強調するあまり意味不明になる言葉たち…
『これがそうなのか』永井玲衣/集英社/1980円
「めしテロ」「感動ポルノ」などの言葉につい“座布団三枚!”と叫んでしまった自分を恥じる。著者の永井さんは「言葉のぶつかりの面白さに鋭くなりながらも、何かを損ねないでいることができるだろうか」という問いを立てる。本書は言葉や、問いを立てること(首かしげ力?)の大切さを書いたもの。1991年生まれの若き哲学者の生活者感覚に触れられるという点でも興味深い。
再読もあれば初読の本も。90冊以上の名作を通し“好き”を広げる読書エッセイ
『やりなおし世界文学』津村記久子/新潮文庫/935円
面白いか面白くないかは読書の分岐点。著者は10代で読み天才ヴォネガットらしくないと思った『スローターハウス5』を再読し、主人公の「おもんなさ」は必然だったと気づく(一言にすると戦争トラウマのお話)。一方手放しで没入したのは延々と続く商店街のようだった『荒涼館』(ディケンズ著)。著者に導かれるというより共に読むような親近感で、名作へのハードルが下がる。
詐欺の首謀者や加担者、そして被害者。両者が交錯する現代の悲哀と温かな救い
『噓つきジェンガ』辻村深月/文春文庫/825円
詐欺をテーマにした3編。コロナ禍で友人の甘言に誘われロマンス詐欺に手を染めてしまう大学生の耀太、勉強を頑張っている息子が不憫でお受験詐欺に、つい100万円を支払ってしまう母の多佳子、谷嵜レオが覆面作家であるのをいいことにレオになりきってサロン詐欺をはたらく「子供部屋おばさん」の紡。現代を映す犯罪でありながらラストは光に満ち、読後感はとてもいい。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年12月11日号



